ファッション

アデライデを抜擢、フォーシーズンズホテルが見据える次世代のラグジュアリー体験とは?

 9月1日に開業を迎える、「フォーシーズンズホテル東京大手町」。その最上階にセレクトショップのアデライデ(ADELAIDE)がキュレートするライフスタイルストア「ザ スパ ブティック バイ アデライデ(THE SPA BOUTIQUE BY ADELAIDE)」がオープンする。“豊かな文化の創造”をビジョンに掲げ次世代のラグジュアリー顧客層を見据えた売り場には、日本の伝統工芸や国内外のクリエイターが生み出した特別な品々がそろう。両者が目指す本物志向のライフスタイル提案と、新しいラグジュアリー体験とは?アンドリュー・デブリト(Andrew De Brito)リージョナル・バイスプレジデント兼 フォーシーズンズホテル大手町 東京 総支配人と、長谷川左希子アデライデ/アディッション アデライデ=ディレクターに話を聞いた。

 「開業計画を進めるにあたり、退屈なものとなっているホテルのリテールを改革したかった。次世代を見据えたこのホテルにはもっと現代のライフスタイルに寄り沿える売り場が必要だと感じていました」と話すデブリト総支配人。協力者となるリテーラー探しを始め、三井不動産を介してアデライデに行き着いたのは緊急事態宣言渦中の5月ごろだったという。「ちょうど、私たちも3年前からライフスタイル提案のプロジェクトを水面化で考えていましたから、とてもありがたいお話でした」と長谷川ディレクター。「アデライデの持つアパレル、リテールの知識などを全て包み隠さず伝えることから始めました」と、わずか4カ月という短期間ながらも互いの理念やビジョンに共通項を見出せたこと、そしてお互いが透明性を持って取り組めたことが信頼関係につながったようだ。

 丸の内に続き都内2軒目のフォーシーズンズが出店する大手町は、東京のグローバル企業が拠点を置くビジネス街であると同時に、皇居を中心に緑が広がるエリアだ。ライフスタイルショップを擁する39階からは、そういった絶景が360度見渡すことができる。ラウンジがある同フロアには、「ピニェート(PIGNETO)」や「エスト(est)」、「ヴェルテュ(VIRTU)」という 3軒のレストランと、ライフスタイルショップを併設したスパを一つのフロアに集めた。デブリト総支配人が“ソーシャルスペース”と銘打つフォーシーズンズにとっては革新的なこのフロアを通して、宿泊客だけではなく、来館者に向けてもシームレスな体験を提供していくという。

 スパはレストランスペースの喧騒を遮るような重厚な扉の奥に位置し、皇居を望む20mのプールやジム、リラクセーションルームをつなぐ中間の空間がライフスタイルショップとなる。キュレーションのテーマは“サステナブル・クラフツマンシップ/本物志向・エッセンシャル/希少価値・リミテッドエディション”。扉を開くとお香がかおる暗がりの長い通路が現れ、潮工房(神奈川)のガラスや田淵太郎さん(高松)の白磁といった日本の美意識を感じさせる工芸品や、「叢- Qusamura」(広島)による植栽などがまるでアートのようにディスプレーされている。

 「アデライデもそうですが、アンドリューさんの中に“ギャラリー”というイメージがあったようで、そこにもシナジーを感じました。工芸品のセレクションは自宅でそういうものをコレクションして集めてきた母(長谷川真美子クリエイティブ・ディレクター)が担当しています」。

 一方で、上質なものをよりすぐったという、アパレル、ジュエリー、コスメ&スキンケアなどは、長谷川ディレクターが中心となってそろえたという。「アデライデ」と縁のある「ヴェトモン(VETEMENTS)」といったトップブランドとは限定商品を製作した。また、バスソルト「アマヨリ(AMAYORI)」や米デザインスタジオが手がけるインセンス「テネン(TENNEN)」など日本初上陸のブランドのほか、長谷川ディレクターと同世代のクリエイターにもスポットを当て、ロサンゼルスを拠点に活動するモデルのローラが手掛けるワークウエア「ストゥディオ アール330(STUDIO R330)」を国内では唯一常設で取り扱うほか、「チヨノ・アン(CHIYONO ANNE)」のランジェリーからも限定品がそろう。「宿泊者の方にだけではなく、オフィスで働く人たちのギフトショップになればと、ここでしか手に入らないものにこだわった」と、母娘の世代を超えたセレクションで他にはない空間を生み出した。

 27年間もの間、フォーシーズンズに身を置くデブリト総支配人は、「今の時代における“ラグジュアリー体験”ついてはたびたび社内でも議論されてきたが、その一つに“経験”がある。常に移動し続ける現代人にとっては、座って誰かと食事をしながら会話することや、アートに刺激されてクラフツマンシップに敬意を感じること、時間をぜいたくに過ごし、五感を刺激し、感情を揺さぶられる体験をすることにこそ豊かさはあるのではないか」と話す。実際に、今回のライフスタイルショップがそういった新しいラグジュアリー体験において挑戦的な取り組みでもあるということは、互いが店舗在庫をシェアするという運営体制からもうかがうことができる。「このビジネスモデルが成功したら国内の他の施設にも適用していきたいですし、海外に向けても新しいラグジュアリーのモデルケースになるはずです」と、今後にも期待をのぞかせた。

高村美緒(こうむら・みお)/ライター:大学卒業後、雑誌出版社を経て、ウェブメディア黎明期にファッションニュースメディアの初期メンバーとして参画。約10年にわたりパリやミラノ、ニューヨークや東京のコレクション取材のほか、コンテンツ開発などを経験し、2018年に独立。現在はデジタルメディア「リング オブ カラー(RIng Of Colour)」の編集長を務めるほか、京都精華大学非常勤講師やファッションエディター、ディレクターとしても活動している

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