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まだ、あなたが知らないニューヨーク最新トレンド ニューヨークの不動産事情を解剖 SHRINKING FASHION RETAIL SPACE

 ニューヨークのファッション業界で活躍するクリエイティブ・ディレクター、メイ(May)と、仕事仲間でファッションエディターのスティービー(Stevie)による連載第12回。ニューヨークの路上に出現した屋外レストランで、3月以来の対面ランチが実現。“You’d Better Be Handsome”では、トレンドに敏感なレイチェル(Rachel)も加えて、ニューヨークのトレンドや新常識について毎回トーク。今回のテーマは、激変するニューヨークの不動産事情について。コロナの前から閉店に追い込まれている百貨店とセレクトショップの厳しい現状を含めてリポートする。

 ソーホーのはずれ、素敵な雑貨店「ギルド(THE GUILD)」と花屋を併設するフレンチレストラン「ラ メルシエ(LA MERCIER)」。レストランのすぐ外に設置されたテーブルは、もともとある屋内にも増してパリにいるかのようなムード。屋内でのレストラン営業がまだNGのニューヨークでは、レストランの周りにテーブルが設置され、天気のいい日は気持ちよく食事ができる。6フィート(約1.8m)は離れていないといけないため、普段よりも広々と感じる。メニューはQRコードをスキャンする仕組み。これもニューノーマルの一部。La Mercier, 53 Howard Street, New York NY 10013 tel:212 852 9097

メイ:屋外のレストランは使い捨て食器やプラスチックのコップが多かったりするけれど、「ラ メルシエ」ではもちろんコップはガラスで、ナプキンも布で、シルバーウエアだし、なんだかとっても落ち着く。

スティービー:屋内も天井が高くて素敵な空間だったけど、隣のテーブルの会話が丸聞こえしてしまう距離感だったから、今の方がゆっくり会話を楽しみながら食事ができるね。

レイチェル:レストランには申し訳ないけど、そんなに混んでないし、一人ずつのスペースがたっぷりで贅沢な感じ。でも雨が降ったりすると営業できないわけだから飲食店は大変よね。

スティービー:冬が来る前に、レストランの屋内でも食事ができるようになるといいね。

歴史あるロード&テイラーの撤退

メイ:でも今回のコロナのことが後押しして、ニューヨークを撤退するチェーン店も増えている。家賃が高いし仕方ないけど。

スティービー:例えばどこ?

メイ:ブライアントパークの中にある「ブライアント パーク グリル(BRYANT PARK GRILL)」も、実は他に19店持つチェーンだったらしく、旗艦店という意味でニューヨークに店を構えていたけれど、シンボル的なことにお金を費やしている余裕はなくなったみたい。

スティービー:ブライアントパークといえば、その2ブロック南にあったロード&テイラー(LORD & TAYLOR)という百貨店がとうとうなくなってしまったよね。ロード&テイラーは、1826年に創業したアメリカでいちばん古い歴史を持つ百貨店だった。ニューヨークの旗艦店は2018年に閉めていたけれど、まだ地方都市のモールを中心に50近くあった店舗のうち、19店が閉店する。

レイチェル:アパレルレンタルのル・トート(LE TOTE)が昨年8月に、ハドソンベイカンパニー(HUDSON BAY COMPANY)からロード&テイラーを買収したばかりだったのに、今月2日に破産申告を申請している。

スティービー:ル・トートもロード&テイラーを買収しなければ、共倒れにならなかったかもしれないのに。一時はメイシーズ(MACY’S)を持つフェデレイテッド(FEDERATED)の傘下にあったロード&テイラーにはいろんな企業が挑戦したけどうまくいかず、終止符を打った。

レイチェル:ニューヨークの元ロード&テイラーの6万1300平方メートルの店舗だけど、シェアオフィスの最大手ウイワーク(WEWORK)が元CEOのアダム・ニューマン(Adam Newman)の下で17年に購入し、その後アマゾン(AMAZON)に売った。今年3月に9億7800万ドル(約1040億円)でね。

メイ:ニューヨーク本社の夢をアマゾンは諦めてなかったんだね。今年3月って、コロナでロックダウンがスタートした時。他の企業だったら、そんな大きな買い物をしてしまって気の毒にもなるけど、アマゾンはロックダウンで利益が大幅に伸びた組代表だからあのビルも安泰だね。

スティービー:最近のロード&テイラーは地味なブランドしか置いていない廃れた百貨店だったけれど、僕が子どもの頃はトップブランドが並ぶキラキラした百貨店だった。1階にはパイプオルガンが設置されていて、華やかだった記憶が鮮明に残っている。

レイチェル:パイプオルガン?

メイ:ブライアントパークでファッションショーがあった時代に、ときどきあそこのカフェで休憩したりした記憶があるな。けっこう昔のことだけれど。そのときもすでにいつでも空いていた。

スティービー:百貨店内にレストランをオープンしたのも、ロード&テイラーがいちばん最初だったはず。5番街にある旗艦店は20世紀初頭に建てられたランドマークだし。

メイ:百貨店が難しいといわれて久しいけれど、本当に次々に消えていくよね。ブルーミングデールズ(BLOOMINGDALE'S)やサックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)は大丈夫かな?

スティービー:ニーマン マーカス(NEIMAN MARCUS)が破産申告したのが5月。コロナが大きな要因にはなっているだろうけど、その前から苦労していた様子だった。

メイ:ニーマン マーカス グループ傘下の高級百貨店、ニューヨークの最高峰バーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)は大丈夫なのかな?

スティービー:バーグドルフは、別の経営チームが担当しているとかで、ニーマンの道連れにはならなさそうだけど、eコマースに強いわけでもなさそうだから大変だろうな、とは想像できる。

レイチェル:ニーマン・マーカスがバーグドルフを買収したときの条件として、バーグドルフは、同グループから競合百貨店をニューヨークにはつくらないことを提示したらしい。そのため、ずっとニーマン マーカスはニューヨークには出店しないできた。でも19年に大型高級ショッピングセンター、ハドソンヤーズ(HUDSON YARDS)がニューヨークに登場した際に晴れて出店したわけだけど、お客がそんなに入っているわけでもないし、正直いつまで持つのかなとみんな思っていたはず。

スティービー:ハドソンヤーズだけじゃないけど、コロナ時代に人がたくさん集まる、しかも室内のショッピングモールは危険とされているからつらいね。

メイ:「シャネル(CHANEL)」とか「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「ディオール(DIOR)」「フェンディ(FENDI)」まで入っているのにね。あの手の高級モールがワールドトレードセンターの近くにもあるけど、どうなっているのかしら?

レイチェル:ブルックフィールドプレイス(BROOKFIELD PLACE)とウエストフィールドワールドトレードセンター(WESTFIELD WORLD TRADE CENTER)のこと?ブルックフィールドには「グッチ(GUCCI)」や「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」が、ウエストフィールドにはアップルや「H&M」が入っていた。でもみんなまだコロナの影響で閉まっているみたい。これを機に撤退する店があっても驚かないな。

高い賃料に潰される百貨店

レイチェル:私が暮らすブルックリンのブッシュウィックエリアは家賃も下がっているし、いろんな物件が増えていて引っ越そうかといろいろ物色しているところ。普段なら、そもそも空いている物件が少なくて苦労するのに、現時点ではニューヨーク市全体で1万3000件の空き物件があるらしい。これは記録的。もちろん住居だけで。

スティービー:コロナが長引くし秋からの学校も主にオンラインだから、郊外に引っ越す人も増えていて、ニューヨーク州北部やニュージャージーなどは一軒家の価格が30%くらい上がっているところもあるらしい。実際の物件を見ないで買う人もいるって聞いた。

メイ:分かる分かる。前みたいに旅が気軽にはできなくなったいま、仕事もリラックスも学校も何でもかんでも家でしないといけないから、庭やテラスがないとつらい。

スティービー:「ニューヨーク タイムズ(The New York Times)」の5月の記事だけど、ニューヨーク市の人口の約5%にあたる42万人が、ロックダウンになってニューヨークから郊外や他州に逃げたというデータがある。ドライブで2〜3時間以内で行けるニューヨーク州北部のアップステートや、ハンプトンやコネチカットなどに別荘を持っている人たちも多いのも確か。

レイチェル:年内はオフィスに行かなくていい企業もたくさんあるしね。仕事のリモート化で、都会のど真ん中にいる必要がなくなった人たちも多いはず。そもそも、家賃が高過ぎるから。

スティービー:家賃が高いといえば、米国の「ムジ(MUJI)」も7月に破産宣申告をしたね。カリフォルニアの店舗は全店閉鎖するらしい。そういえばニューヨークのハドソンヤーズにも入っていたね。

レイチェル:高いところにばかり出店したのがあだになったみたいよ。

メイ:そうはいっても、みんないいところに出店したいよね?ただバランスの問題だと思うけど。

スティービー:バーニーズ ニューヨーク(BARNEY’S NEW YORK)が倒産したときに、あのビルが持ちビルでないと聞いてすごく驚いたのは僕だけじゃなかったはず。1993年から旗艦店を構えてきたから、てっきりバーニーズのビルだと信じ切っていた。2万1375平方メートルの面積を借りていたとは。

メイ:年間家賃が1600万ドル(約17億円)だったのが、19年1月に約倍の3000万ドル(32億円)になったというのも倒産の理由だったよね。1600万ドルだって十分に高い。高級品をたくさん売ったところでなかなかそんな利益は出ないって、素人の私でも計算できるのに。ヘンリベンデル(HENRI BENDEL)もワクワクさせられる素敵な店だったけど、なくなってしまった。実はバーニーズと同じ頃に静かに閉店したよね。

スティービー:ニューヨークに店を出すのは、以前は成功の証しだったかもしれないけど、もうそんなことを言っている場合ではなくなっているし、一等地に旗艦店をオープンすることがゴールということ自体がいまどきじゃない。

続々消えゆくセレクトショップ

メイ:オープニングセレモニー(OPENING CEREMONY)はある意味、いいときにビジネスを売ってラッキーだったと言える?コロナの前だったから。予定より早く店を閉めなくてはいけなかったとはいえ。

レイチェル:ディエチ・コルソコモ(10 CORSO COMO)もコロナになって、あっという間に閉まってしまった。18年9月にオープンして、結局2年持たなかった。場所も不便だったから、私は1度行ったきり。

スティービー:ディエチ・コルソコモのスーパーセールが7月にオンラインであって、普段は絶対にセールにならないようなブランドまで全て70%オフとかになったんだよ。ただ、すごいオーダーが殺到してパンクしたのか、全キャンセルになったらしい。前代未聞。

レイチェル:オンラインセールといえば、ニューヨークにお店もあったトトカエロ(TOTOKAELO)と、オンラインでセンスのいい服と雑貨を販売してきたニードサプライ(NEEDSUPPLY)。同じグループだけど、どちらも現在進行中のセールをもって閉店するらしいし。

スティービー:ニードサプライは、1996年にビンテージのリーバイス専門店としてバージニア州リッチモンドでオープンした。2008年から、オンラインも展開していて、僕も本や食器を買ったりしていたよ。

メイ:5月にはジェフリー(JEFFREY)も閉店したよね。1999年まだ血の匂いが漂うミートパッキング地区に高級セレクトショップをオープンし、その後2005年にノードストロム(NORDSTROM)が買収したのだけれど。

スティービー:あの頃旬なデザイナーブランドがすべて並んでいたし、メンズも充実していた。ジェフリーの出現で、ミートパッキングには続いて「ステラ・マッカートニー(STELLA MCCARTNEY)」や「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER MCQUEEN)」などのブティックが出来たし。

メイ:コロナがとどめを刺したのは確かかもしれないけれど、セレクトショップというコンセプトが次々に破綻してきている。バーニーズ、ヘンリベンデル、オープニングセレモニー、スティーブン・アラン(STEVEN ALAN)、ジェフリー、トトカエロ、もっと出てくるかも?

スティービー:センス(SSENSE)のように店を構えず、それゆえに一等地で高い賃料を払わなくてもいいところしかもはや生き残れないのかも?

メイ:結局はアマゾンだけが生き残る世の中しか待っていないのか?今はツーリストもいないし。

レイチェル:アマゾンといえば、郊外の閉店したモールを発送センターにする予定があるらしい。モールの経営では最大手のサイモン・プロパティ(SIMON PROPERTY)と交渉中だとか。シアーズ(SEARS)やJ.C.ペニー(J.C.PENNEY)だったところがアマゾンになるってこと。

メイ:ロックダウンの間も閉まらなかったターゲット(TARGET)やウォルマート(WALMART)とかの売り上げはすごく上がっているし。勝敗がはっきり出てきている。

スティービー:小売業の不動産物件が今後どうなるかは目が離せないね。店がどんどん閉店するだろうし。ニューヨークの魅力って、ショッピングであったことは確かだから、その魅力が消えないといいね。

メイ/クリエイティブディレクター : ファッションやビューティの広告キャンペーンやブランドコンサルティングを手掛ける。トップクリエイティブエージェンシーで経験を積んだ後、独立。自分のエージェンシーを経営する。仕事で海外、特にアジアに頻繁に足を運ぶ。オフィスから徒歩3分、トライベッカのロフトに暮らす

スティービー/ファッションエディター : アメリカを代表する某ファッション誌の有名編集長のもとでキャリアをスタート。ファッションおよびビューティエディトリアルのディレクションを行うほか、広告キャンペーンにも積極的に参加。10年前にチェルシーを引き上げ、現在はブルックリンのフォートグリーン在住

レイチェル/プロデューサー : PR会社およびキャスティングエージェンシーでの経験が買われ、プロデューサーとしてメイの運営するクリエイティブ・エージェンシーで働くようになって早3年。アーティストがこぞってスタジオを構えるヒップなブルックリンのブシュウィックに暮らし、最新のイベントに繰り出し、ファッション、ビューティ、モデル、セレブゴシップなどさまざまなトレンドを収集するのが日課

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