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「ブルックス ブラザーズ」は仕事着の変化に対応できなかった 鈴木敏仁USリポート

アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。今回は経営破綻したブルックス ブラザースについて。誰もが知る名門ブランドはなぜ低迷したのか。

 米ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)が7月8日に連邦破産法11条の適用を申請して破綻した。創業は1818年、衣料専門店としては世界で最も長い歴史を持つ企業である。

 今時の若い人たちにとっては数あるブランドの中の一つに過ぎないだろうが、一定の年齢以上の人にとっては憧れのブランドだった。私が社会人として仕事を始めた頃は、ブルックスやラルフ ローレン(RALPH LAUREN)を着ている上司たちを見て「イカしている」と感じ、「あれを着るような大人の男になりたい」思い、せっせと買って着たものである。だからとりわけ私にとっては、この破綻は青春時代を思い出して切ないのである。

原因はデジタル化の遅れにあらず

 1988年にイギリスのマークス&スペンサー(MARKS & SPENCER)に買収されて英資本となり、2001年には富豪のクラウディオ・デル・ヴェッキオ(Claudio Del Vecchio)が買収し今に至る。ベッチオはイタリアの多国籍眼鏡メーカー、ルックスオティカ(LUXOTTICA)創業者の子息で、ブルックスのブランドのアイウエアをライセンス販売していることが接点となっている。

 この20年間、ブルックスが輝きを取り戻したことは一度もなかった。ヴェッキオの経営力欠落が破綻に至った根本的な原因ではないか。
既述のごとくブランドがすり込まれている私はモールに行くと必ずブルックスの店舗に足が向いてしまう、しかしこの20年ほど何かを買った記憶がない。店内はいつも閑散としていてどうやって事業が回っているかといつも不思議に感じた。おそらく富豪の資金力によって長い低迷状態を許容していたのだが、営業停止によって手元の流動性が急速に悪化して破綻を決断したのだろう。

 ちなみにデジタルやECへの対応の遅さが破綻の要因とする日本の記事を散見したが、私の知る限りブルックスは積極的な方だった。業界に先駆けての取り組みもかなりあった。主要な敗因はやはりマーチャンダイジング(MD)にあったと見るのが妥当だ。

ネクタイやスーツが不要になった

 私がアメリカの小売業界に仕事で関与し始めたのは20年以上前だ。当時から小売り、卸、メーカーの本社を訪問したときにネクタイをする機会はほとんどなかった。本社がネクタイ不要で、店頭でも不要。フォーマルな着こなしをする場面は非常に少ない。経営層が金融業界向けにプレゼンするようなときしか着ることはなかったのではないだろうか。ウォルマート(WALMART)は数年前に公的な場でネクタイ不要となり、ドレスコードをさらに緩めている。

 そのため私自身のネクタイが不要になった。締めるのは日本人と会うときだけとなってしまい、いつの間にかネクタイをするのを止めてしまい、そのためスーツを着る機会もなくなってしまった。ブルックスで買うものがなくなったのはこれが大きい。

 このアメリカのカジュアル化を引っ張っているのがフリーランスである。2年前のNYマンハッタンでの試算では働いている人の38%がフリーランスで、そのためオフィスのデザインが急速に変化していると報じられている。ウィワーク(WE WORK)の成長もフリーランサーが増えていることが背景にある。
もう一つはかっちりしたフォーマルな着こなしを好んだベビーブーマーのリタイヤが始まり、ミレニアルズやジェネレーションZが職場に増えてきたことも大きい。彼らは小さいときからすでにカジュアル化が始まっていた世代である。

 また彼らは1つの服に複数の機能を求める世代だと言われている。仕事場でもプライベートでも着ることのできる服を求めていると。

 個人的な話をすると、ナイキ(NIKE)やアンダーアーマー(UNDER ARMOUR)のポロシャツやモックネックを仕事で着て、普段も着ているので、このトレンドは腑に落ちるのである。例えば高級スポーツウェアのルルレモン(LULULEMON)にはストレッチ素材を使ったカジュアルパンツのラインがある。高級素材を使っているのでチノパンの代替として仕事着として着ることが可能だ。ストレッチ素材なのでハードな運動もできる。128ドルと高いけれど衝動買いした。これを着てワークアウトすることはやはりないのだが、フィットネスなオーラを持つブランドを身にまとう方が、クラシカルなブランドを着るよりもいまや満足感が高いのである。

 これは女性のアスレジャーの流行に通じるマインドだと思う。ルルレモンはヨガウエアに高級素材を持ち込んで日常着として成功した。これが一大トレンドとなったわけだが、いまやヨガタイツは仕事着としても受け入れられている。

 この大きな嗜好の変化にブルックスは無縁でいたことに敗因があったのだろうと思っている。

再生に名乗りをあげる3企業

 ブルックスの今後はこれを執筆している時点ではいまだ流動的だ。店舗はどのぐらい閉店するのか、またはすべて閉じてネットに集中するのかといった具体的な再生戦略はまだ分からない。分かっていることは資本の売却で、複数企業による競争入札になるだろうとみられている。

 現時点ではブランド管理企業のWHPグローバル(WHP GROUP)、同じくブランド管理企業のオーセンティック・ブランズ・グループ社(AUTHENTIC BRANDS GROUP)とモール運営会社のサイモン・プロパティ・グループ(SIMON PROPERTY GROU)の2社による合弁企業、イタリアのネット通販関連企業、以上3企業が候補に挙がっている。2つめの合弁企業はフォーエバー21(FOREVER21)やノーティカ(NAUTICA)を買収しているのだが、なぜモール企業がリテーラーを買収するのかはまた別の機会に書こう。

 店舗はなくなるかもしれないが、ブランドが消滅することはないだろう、ということだけが少なくとも現時点で言えることである。

鈴木敏仁(すずき・としひと):東京都北区生まれ、早大法学部卒、西武百貨店を経て渡米、在米年数は30年以上。業界メディアへの執筆、流通企業やメーカーによる米国視察の企画、セミナー講演が主要業務。年間のべ店舗訪問数は600店舗超、製配販にわたる幅広い業界知識と現場の事実に基づいた分析による情報提供がモットー

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