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連載 コレクション日記

デジタルメンズコレでドタバタ対談 「ドルチェ&ガッバーナ」と「エトロ」に救われた大ハズレのミラノ2日目

 デジタルでのパリ・メンズ・コレクションが終わり、舞台はミラノへ。7月14日からスタートしたミラノのデジタル・ファッション・ウイークは2日目に突入しました。ミラノでも主にメンズを担当している記者たちが「頑張ってリアルタイムで見てみました」取材を日替わりで担当します。「アーカイブでも見られるのにオンラインで見る意味あるの?」という周囲の視線を感じながらも、「コレクションはライブ感!」と信じて完走を目指します。今回は村上要「WWD JAPAN.com」編集長と、大塚千践「WWDジャパン」デスクというアラフォーコンビがリポートします。

大塚:ミラノ2日目がスタートしました!コレ、ドタバタ対談というタイトルなのですが、本当に関わる4人が毎日ドタバタしているのって伝わってますかね(笑)。

村上:やっぱりリアタイで見るって、企画にムリがあったね(笑)。言い出したのは、ワタシなんですが……。

17:00(ミラノ時間10:00) 「エトロ」

大塚:でも、リアタイで見ないとちょっと気持ち悪くなってきてる自分がイヤです……。さて、トップバッターの「エトロ(ETRO)」は今シーズンのデジタルコレクションで始めてフィジカルのショーのライブ配信でした。3分遅れぐらいで始まり、会場には約1m間隔で座ったマスク姿の観客の姿もあり、ファッションショーでは当たり前の光景が今や新鮮でした。「ファッション産業とミラノの街の支援のために前向きなメッセージを」という思いでフィジカルのショーを開催したようですね。

村上:「エトロ」は電車の中で見ました。ゲストのマスク率が低いのが気になりますが、良いショーでした。草花柄、そして、そんな草花モチーフを単純化して誕生したといわれているペイズリー、「エトロ」のシンボルのペガサスなど、命の強さや尊さを感じさせてくれました。色合いも前半は草木染めのように穏やかな色調で、後半も1トーンでクリーン。メンズは、ちょいダサなクロップドパンツが愛らしいね。ウィメンズはプレのせいか、ボヘミアンテイストも控えめで、おうち時間が長い今着たい(笑)。あと、一家はソーシャル・ディスタンシング関係ないから、一緒に投稿できていいね。最近ユーチューブ(You Tube)でよしみち兄弟動画を見てしまうのですが、人と関わりたい今はキーン(Kean)とヴェロニカ(Veronica)がそろって登場したスタートとフィナーレにホロリときました。

大塚:アースカラー中心でしたがやぼったくならないギリギリの絶妙な色合いでした。優しいけれど力強さも感じるスタイルでしたね。東京からはるか遠くのミラノの街でのショーでしたが、人が集うシーンを見ているだけでもなんだか安心します。

18:00(ミラノ時間11:00) 「レゾム」

大塚:さて、ここからが鬼門でございますよ(笑)。門番のごとく立ちはだかる「レゾム(LES HOMMES)」から、早速めちゃキツかったです。夜8時からの「着点(きてん)」の準備もあるし、あした校了の紙面の原稿もあるのに、動画が14分間もあって全く終わらないです。デンッデンデンデンという音楽が止まって暗転し(はー、やっと終わった)と安心したら……デンッデンデンデンって始まるんですよ。これを何回も繰り返すので地獄でした。でも実は、3分強の同じ映像がループしていたということに4回目ぐらいでようやく気づいたんです(笑)。服がよくいえばブレない、悪く言えばいつもと一緒のロックスタイルで引っかかる部分がなく、映像がループしても気づかなかったんです。貴重な10分間を無駄にしました。

村上:アレは何が目的で3分半の動画を何回も繰り返して15分にしちゃったんだろう(笑)。正直、「あー、15分もあるのかぁ。早送りしちゃおっかなぁ」って思ったんです(笑)。3分半とわかってたら、そんなよこしまなコト考えなかったのですが。洋服は、ホントいつもと変わんない。キレイなジャケットとシャツなのに、アクセサリーを合わせるとピンとこない。「工場選びって、大事なんだな」って思います。

18:30(ミラノ時間11:30) 「サントーニ」

村上:「サントーニ(SANTONI)」で、「あぁ、映像でもミラノメンズって、ミラノっぽいな」と思いました。郷土愛、強し!マルケ出身の「サントーニ」は、たぶん全編マルケで撮影していると思うんだけど、それが、地元を愛しているイタリアンブランドっぽい。冷静に考えたら、山の中腹にクロコダイルのコインローファーでたたずむとか、岩肌がゴツゴツした海岸線をゴルフシューズでお散歩とか「なんでやねん!」なんだけど、「地元愛です」と言われると「なるほど〜」とうなってしまう——そんなカンジです。

大塚:僕も同じポイントでツッコんでました。海沿いの岩肌をそんな靴で歩いたら落ちちゃうよ!と。ただ「レゾム」のループ地獄に心がやられていのたで、きれいなロケーションに純粋に癒されました。そして案外、ウンチクだらけの専業ブランドって近寄りがたいところも多いので、こういうムード重視の映像にチャレンジするのは風穴を開けるいいきっかけにもなるかも、とは思いました。

村上:それにしてもミラノメンズは、協会のホームページがめちゃくちゃ見づらいな(泣)。

大塚:本当にそう思います。カーソルを動かすとページも動いちゃうんで酔いそう(笑)。変わったことをやろうとすると、イタリア系ってまあまあの確率で裏目に出ませんか?

19:00(ミラノ時間12:00) 「MTLスタジオ マッテオ ラマンディーニ」

村上:次の「MTLスタジオ マッテオ ラマンディーニ(MTLSTUDIO MATTEOLAMANDINI)」は、状況がよく理解できないのですが(笑)。男子3人、女子1人で、1台のキャンピングカーに乗ってキャンプっていう意味深なシチュエーション。女の子が海から出てきたら、なぜか草原で摘んだような花束。ナンダコレハ(笑)?洋服は、ワザと垂らしているスレッドが、「ほつれ糸、ついてますよ」って見えてしまう残念なカンジでした。

大塚:僕は、寝起きの設定なのにばっちりサングラス姿だったので飛び上がりました(笑)。デザイナーは、服作りが本職ではないんじゃないですかね。とりあえず穴開けてみましたみたいなニットやストリートカルチャー“風”なモチーフなど、素人っぽさが「んん〜」という感じで。ストーリーは意味不明でもモデルは言われた通り真剣に演技しているから、気の毒ですね。ちなみにデザイナーのインスタグラムのフォロワーが713(7月15日時点)でした。がんばれー。

20:00(ミラノ時間13:00) 「ファビオ クアランタ」

村上:「ファビオ クアランタ(FABIO QUARANTA)」は、映像の明滅と音割れがスゴすぎて疲れたよ。ナゼ、オジサン2人の回に出てきたのよ(笑)?昨日の若手2人なら目も疲れないだろうけれど、40代には厳しいわ……。洋服も、悪い意味でアラブ諸国を刺激しそうな気がするけど、大丈夫ですか?

大塚:ここの動画は「着点」終わりにアーカイブで見ましたが、もう冒頭の10秒だけでイヤな予感しかしませんでした。デザイナーは、確かドレスやテーラードの方が得意なんですよ。明らかに世界観が違うんじゃないかと。「何か変わったことやってやろう」というのが透けて見えたし、さらに服どころか人も途中まで全然出てきません(泣)。ただ基本は意味不明なんですが、我慢して見ていると、隕石が地球に向かってきてるストーリーなんだとなんとなくわかってくるんです。そうすると、結末が気になるんですよ(笑)。そしていよいよ衝突!ってときにビッグバンに合わせてルックが超絶エフェクトとともに連発するという最悪の展開でした。

村上:そういえばコレが、「朝日新聞」のホームページと直接つながっているコトを思い出しました。「新聞を読むような世代の方に、この映像と音は大丈夫だろうか?」「新聞を読む社会派なみなさんに、ストールで頭をグルグル巻きしたスタイルは平気だろうか?」と。

大塚:そうなんですよ。僕は公式ページが使いづらいのでまさにその「朝日新聞」の特設サイトから見ていますが、そう考えるとドキドキしますね。

20:30(ミラノ時間13:30) 「APN73」

村上:「APN73」もワカンナイヨ。どうしよう、もはやファッションブランドのムービーなのかどうかもわからない(苦笑)。上海に住んでいる、いろんな人に自分自身についてインタビューした動画で終わっちゃったYO!登場人物の洋服が「APN73」だったのだろうか?最後のTシャツはそうだったみたいだけど、あとは全編白黒だしワカンナイヨ‼︎

大塚:「APN73」は“A PARSONAL NOTE”の頭文字をとったブランド名のようですね。ホームページもまだなく、動画も村上さんと同じく全く意味がわかりませんでした。協会の公式ページで服はかろうじて見えるので雰囲気は何となくつかめますが、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」とか好きなんだろうなあという感想のみ。服は最後のTシャツだけじゃないですかね。正直、今のミラノは若手の発掘がヘタすぎませんか?みんなそのコトにはとっくに気づいているので、有望な若手を探しに来るバイヤーってほとんどいないのではないでしょうか。そういう意味でデジタルはチャンスなのに、これではさらにバイヤーの足がミラノから遠のきますよ(泣)。

21:00(ミラノ時間14:00) 「M1992」

村上:悲哀さえ感じる時間はまだ続きます。先の2つに比べれば知名度は勝っている分、ちょっと期待した「M1992」も、よくわからん!ナルシストとか花恐怖症とか、いろんな強迫観念に苦しむ人を描いて、脳みそをプリントしたシャツとか着せてるけど、共感ポイントはドコ?このムービーを見て、「カッコいい!コレ着てみたい!!」って人、いる?ミラノメンズは、ブランド数をやみくもに増やすのやめたほうがいいね

大塚:動画テーマは“BRAIN WASH”。つまり、洗脳でしたね。普通の人が“ナルシシズム”や“ティックトック(TikTok)中毒”などいろいろなテーマで洗脳されていく設定なんだと理解した瞬間は、アレ?ちょっと面白いんじゃないか?と思ったんです。そんな淡い期待は一瞬で打ち砕かれましたが。モデルにハードルが高い演技をいきなりやらせてはダメですね。日常の延長線上ならいいけれど、モデルはオーディションに受かって喜んでいても「じゃあ君、ティックトック中毒者ね」なんていわれたら「!?」ですもん。何回かショーでも見てますけど、プリント系は早々に諦めて、別のポイントで勝負した方がよさげです。

村上:ちなみにティックトックも、アレじゃフォロワー増えないからね(笑)。クリエイターは、みんなメッチャ考えてやってるから。サラ・コールディさんとか、3万倍くらいスゴいから!

大塚:モデルはティックトックの撮影方法をよくわかってないまま演技してますね(笑)。

21:30(ミラノ時間14:30) 「ユナイテッド スタンダード」

村上:お次の「ユナイテッド スタンダード(UNITED STANDARD)」は、悪い意味で「M1992」に通じるね。打ち込みのBGMを流しながら、三つ編みメガネのお兄さんが、何かに追われてるかのように爆走。洋服はほとんど背面だけ映って終了!

大塚:「ユナイテッド スタンダード」はスラムジャム(SLAM JAM)が関わってるので、ほかに比べるとそなりに見られるはずだったのですが、イマイチでした。ただ僕は音楽やテンポ感は好きでしたよ。決定的にダメだったのは、三つ編みメガネのお兄さんのもっさい走り方。疾走感があれば印象も変わるのに、普通に走っちゃってるもんだから全てを失速させています。「ダブレット(DOUBLET)」の井野ベアさんにコミカルな走り方を習った方がいいです。もう疲労で変なポイントにしか目がいかなくなってきました(笑)。それぐらい、服に印象がなかったということでしょうか。

村上:次の「スンネイ(SUNNEI)」でそろそろ安心したい。

22:00(ミラノ時間15:00) 「スンネイ」

村上:今日は不作ですね。「スンネイ」、ほかに比べればヨカッタけど、物足りなかった。冒頭1分30秒は、白い世界の彼方にいる5人がちょっとずつ近くだけ。で、残り2分でなぜか1993年のヒット曲「恋のマカレナ」が流れ始めて、フルCGのバーチャルモデル5人がダンス。途中で、洋服が次々変わる動画でした。カラフルなストライプシャツとか、スリットがいっぱい入ったボディコンニットドレスは、色が入ると「スンネイ」らしいストライプでカワイイ。もっとちゃんと見たかったよ(笑)。

大塚:「スンネイ」も三振かツーベースヒットかみたいなブランドなのでドキドキしていましたが、ほかが厳しい分、かろうじてシングルヒットという感じでしょうか。冒頭のCGで(やばい!)と思いましたが、「恋のマカレナ」ぐらいからはちょっと盛り返しました。「スンネイ」はアイテム単品で見るとかわいいし、スリッポン型のシューズやアクセサリーもセンスはあるんですけど、もう一段上に行くには引き出しをもうちょっと増やさないと。ストライプだけではそろそろマンネリかもしれません。

23:00(ミラノ時間16:00) 「セルダー」

村上:「セルダー(SERDAR)」は、英語を一生懸命話すデザイナーインタビューでスタート。好感は持てますが、「キーカラーはグリーンとブルー、ミント、ベージュ」と語るシーンさえモノクロで「おいっ!」っと突っ込みたくなりますね(笑)。後半カラーになったら、ミント色のルックは、ホントに全身ミント色だった(笑)。

大塚:あと、めっちゃ踊るんですよね。それこそ夜中に撮影が始まって明け方まで収録してるっぽいんですけど、服がほとんど変わらないんです。かといってストーリーも特になく、危うく寝そうになったので、途中でコンビニに出かけました(笑)。最後もデザイナーを交えて全員で踊って大団円なのですが、疲労感とほのかなヤケクソ感がにじんでるように見えたのは僕のコンディションのせいでしょうか……。頭に巻いたバンダナが世良公則さんのようでした。

24:30(ミラノ時間17:30) 「ドルチェ&ガッバーナ」

大塚:不毛のミラノ2日目ラストは、1998年以来の公式スケジュール復帰となった「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」です!もう、待ってました(笑)。最後ぐらいちゃんとしたのが見たい。「エトロ」と同じくフィジカルのショーのライブ配信でしたね。時間は日本時間0時30分過ぎ。いつもならばここから20分は普通に待たされるのでヒヤヒヤしましたが、オペラポップトリオのイル・ヴォーロ(Il Volo)が登場してスムーズにショーがスタートしました。それだけでもすでに感激!

村上:イル・ヴォーロが「帰れソレントへ」を歌い始めた瞬間、「あぁ、『ドルチェ&ガッバーナ』だ〜!!」と感動しましたね。「エトロ」同様のリアルなランウエイショー。でも、「エトロ」よりマスク着用率が高かったのは、なんでだろう(笑)?ドメニコ・ドルチェ(Domenico Dolce)とステファノ・ガッバーナ(Stefano Gabbana)は、もうカップルじゃないから2人ともマスク姿でしたね(笑)。

大塚:ここ3シーズンは、それまでのギラギラなストリート路線をリセットするかのように、サルトリアのスーツに原点回帰していましたが、今回から雰囲気がまたガラッと変わりましたね。

村上:キレイなブルーのタイルを敷き詰めたような幾何学模様のプリントで、オーバーサイズのノーカラーシャツや、ハイウエストパンツを彩った夏らしいコレクション。装飾が控えめだったのは、ロックダウンの影響か?それとも、シンプルを追求した結果なのか?とは言え、軽やかなコレクションは直感的に共感できました。スキッパータイプのニットポロから、ざっくりニット、ビキニのマッチョまで、「ドルチェ&ガッバーナ」らしいラインアップでした。

大塚:ガウンとかリゾートっぽいアイテムよりも、ストリートウエアに落とし込んだスタイルの方がリアリティーがあって好きでした。アジア人モデルが主に着ていたルックです。今回フォーマルは多くなかったですけれど、こういう両軸があるのがここの強みですね。フィナーレ後のスピーチが、夏場の全体朝礼なら3人ほど倒れそうなぐらい長かったですが全部見ました(笑)。

村上:今日のミラノメンズは、映像に凝ろうとしたブランドが玉砕し、シンプルに見せたブランドが際立ったカンジですね。ミラノで、新しく、素晴らしい表現方法が見られるようになるのは、もうちょっと先かな?

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