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中国のロックダウンを生き延びたファッションインフルエンサー ライブストリーミングに活路

 新型コロナウイルスの発生地である中国・武漢市とその周辺地域で4月8日、2カ月半にわたったロックダウン(都市封鎖)が解除された。ショッピングモールは開店の準備をし、公共交通機関も運行を再開している。

 上海とニューヨークを拠点に活動するファッションインフルエンサーのウー・ジャイエ(Jiaye Wu)はロックダウンの約2カ月間を、武漢市にほど近い襄陽(じょうよう)市で過ごした。食料不足が起き仕事も減る過酷な状況の中、インフルエンサーとしてライブストリーミング配信に活路を見出した。それらは人生が変わるような経験だったという。

ロックダウンが宣告されてからの家族との生活

 例年の1月と2月には、ウーはファッション・ウイークに合わせて世界各都市を回る。しかし今年は新型コロナウイルスが急速に広がり旅行が禁止されたため、春節(旧正月)の期間を家族と過ごすことに決めていた。故郷である襄陽市が封鎖されるという知らせが入ったのは、家族と墓参りをしていたときだった。「ニュースを聞いて急いで家族を家に送り届けた。そうでなければホームレスになっていたかもしれない」とウーは当時の状況を思い出す。

 彼女の父は中国の鉄道会社で高い役職に就いている。会社はアウトブレイク(感染者の爆発的拡大)の間、緊急医療品や食料の鉄道輸送を管理した。「初めは車の運転も禁止されていたので、父は家から10kmの距離を歩いて通勤した。彼は街のために力を尽くし、落ち込んでいたと同時に疲れ果てていた。でもオンラインにはネガティブなニュースしかなかった」とウーは語る。

 全てのビジネスが停止したため、すぐに食料不足が発生した。「武漢が封鎖されているのを知ったとき、幸いなことに私たちはたくさんのインスタントヌードルを備蓄していた。母は私が過剰に反応しすぎだと言い、ロックダウンは2週間程度で終わるだろうと話していた。誰が10週間も続くと知っていたと思う?」。そして不動産管理会社が生活に必要な食材を各家庭に配達し始めるまでの2週間、家族は飢餓状態に陥った。「私は5キロ痩せた。食事を抜いたりインスタントヌードルを食べたり、春節の残り物で料理をしたりした」。

 ロックダウンは人々の心に大きな穴をあけたとウーは話す。「私の両親の世代は今までこれほど長い間部屋にこもることはなかった。母はイライラして家の中をぐるぐる歩き続けていた。本当は友達と麻雀でもしたかったんだと思う。私はというと、ビデオゲームをして遊んだりティックトック(TikTok)や「快手」(中国の動画共有アプリ)を見たりしていたから、時間はかなり早く流れた」と加えた。

配送システムとライブストリーミングを駆使

 ファッションブランドや中国の緻密な配送システムのおかげもあり、ウーはソーシャルメディアで存在感を発揮し続けた。「ルルレモン(LULULEMON)」とコラボして家庭で実践できるワークアウトを紹介したり、「アディダス(ADIDAS)」「プーマ(PUMA)」「ミュウミュウ(MIU MIU)」と“ステイホームファッション”をプロモーションしたりした。「私の実家は撮影にベストな環境ではなかったけど、母が近所の写真家から照明機材を借りてきて手伝ってくれた。さらに『プーマ』は“N95フェイスマスク”を、『バイファー(BY FAR)』は海外からバッグを送ってくれた」。

 3月18日、襄陽市は中国で初めてロックダウンを緩和した。ウーは健康状態を示すカラーコードで、都市の外へ出る許可が下りるグリーンと診断された。そして車で14時間かけて上海のアパートへ帰り、そこでまた普通の生活を始めるまで1週間一人で過ごした。

 ウーの仕事はかなり乱されていたが、ライブストリーミングで人気を得たおかげで収入は増えた。中国では現在、クオリティーの高いライブストリーミングを配信できるユーザーが不足している。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「バーバリー(BURBERRY)」などのブランドがオリジナルコンテンツを生み出すツールとして使い始めたので、ウーのようにファッションモデルとしてキャリアをスタートさせ、美術やデザインに関する専門的な知識を持っていることはアドバンテージとなる。

 ウーは自身の仕事について、「私の収入はブランドのマーケティング費用に依存している。イベントが全てキャンセルになってしまい、私は新しいチャンスを探していた。これまで中国のファッションインフルエンサーはウィーチャット(微信、WeChat)で読まれるようなコンテンツを生み出して稼いでいた。今私はライブストリーミングを通じて、マス市場の視聴者とラグジュアリーやデザイナーズブランドの架け橋になるようなポジションを築いている」と語った。

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