ファッション

就任半年で黒字化 ピーチ・ジョン社長に聞く今後のアジア戦略

 1988年にカタログ1号を発刊した「ピーチ・ジョン(PEACH JOHN以下、PJ)」は、1990年代に欧米のトレンド感ある下着やオリジナルの下着を感度の高いビジュアルで紹介し、日本の女性たちに下着のおしゃれを楽しむことを提案してきた。「PJ」のカタログは日本版「ヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA’S SECRET)」とも呼ばれ、続々とヒット商品を生み出して日本の下着市場を大きく変えた。一方で「ヴィクトリアズ・シークレット」の親会社であるLブランズ(L BRANDS)は、同ブランドの業績悪化から20年2月にヴィクトリアズ・シークレットの株式55%を投資会社のシカモア・パートナーズ(SYCAMORE PARTNERS)に5億2500万ドル(約572億円)で売却した。ピーチ・ジョンは2006年にワコール(WACOAL)と資本業務提携し、翌年にはワコールホールディングス(HD)の子会社に。08年には香港に海外1号店をオープンし、海外進出も果たした。しかし近年は、消費者の購入方法や嗜好が大きく変化し、「ユニクロ(UNIQLO)」などの異業種による下着市場参入が増えて競争が激化したこともあり、減収が続いていた。その状況を打開するべく19年4月に就任した杤尾学ピーチ・ジョン社長に、現状と今後の戦略を聞いた。

 社長に就任してから約半年間で「PJ」と「サロン・バイ・ピーチ・ジョン(SALON BY PEACH JOHN以下、サロン)」のカタログを休刊、若年層をターゲットにした「ヤミーマート(YUMMY MART)」を終了。また、国内8店舗、海外2店舗を閉店するなど、マイナスの印象を受ける動きが続いた。その経緯に関して杤尾社長は、「社長就任後、今の問題点は何かを徹底的に分析した。カタログビジネスから今のマーケットに合うビジネスモデルの構築を目指した結果、“自社EC最優先”と“店舗の効率化”という結論に至った」と話す。就任早々に採算が取れない店舗を閉店したことで店舗効率は大きく改善し、ほぼ全店が19年7月以降は前年の売り上げを超え、第2四半期は黒字に転換した。ECについては、「自社EC、アマゾン(AMAZON)、ゾゾタウン(ZOZO TOWN)、ワコール公式ウェブストアと3つの販路がある。アマゾンは40代で定期購入者が多く、ゾゾタウンは安い下着を探す若い消費者、ワコール公式ウェブストアでは、『ワコール』ブランドよりも求めやすい『サロン』を求める顧客が多い。このように各サイトのターゲットに合わせて商品構成を変えて差別化し、全ての販路の売り上げが伸びている」と言う。商品は変えられないので、各チャネルに合った売り方を追求した結果だ。

 30年以上ブランドの顔であったカタログを休刊した理由については、「毎シーズン200万部発行して電話やファクスで注文をとる時代ではなくなった。カタログの製作には経費もかかるし、ECにシフトする必要があった。HP、メルマガ、ライン(LINE)などのデジタル広告を通して消費者に商品を知ってもらうきっかけをつくり、ECサイトに誘導することが売り上げにつながっている」と言う。カタログはあくまで“休刊”であり「いいカタログだったという声も多いので、必要性があれば発行する可能性もある」と加えた。

定番となる“バストメイクブラ”
のヒットが黒字化をけん引

 ピーチ・ジョンの親会社のワコールHDは19年3月期でピーチ・ジョンによる減損損失を約56億円計上している。19年4〜12月期のピーチ・ジョンの業績は、売上高が78億円(前年同期は80億円)、営業損益が1億6800万円の黒字(同2900万円の赤字)だった。20年3月期は、国内は黒字化を見込んでいるが、香港のデモおよび新型コロナウイルスの影響による中国市場の落ち込みが懸念される。

 ピーチ・ジョンの黒字化をけん引したのが、19年2月に発売した“ナイスバディブラ”(19年12月25日までに累計31万枚以上を販売)と同年7月に発売した“スマートブラ” (2019年12月25日までに累計 21万枚以上を販売)だ。時代を反映した“ラクで美しいバストメイク”を目指す着用感を大前提にした機能を持たせたのが好調の要因だろう。今年1月に発売した“いつでもジャストブラ”も好評で、機能とファッション性を兼ね備えたブラジャーという同社の強みをアピールした商品になっている。杤尾社長は、「これらの定番商品を一過性ではなく、写真、キャッチコピー、ポイント訴求などアプローチを替えながら、長く売れるよう工夫し、ロングセラーにしていく」と話す。今年1月には10代後半から20代前半の世代に向けた新ブランド「ガールズ バイ ピーチ・ジョン(GIRLS BY PEACH JOHN)」をスタートさせた。その理由に関して「従来の顧客の年齢が高くなってきており、若年層にアプローチできていないから。この新ブランドを通してこれらの層にも『PJ』を知ってもらい新客獲得につなげたい」と語る。

アジアで
グローバルブランドとして確立

 現在のピーチ・ジョンの課題に関しては、「中国市場の収益率をアップし、『PJ』をグローバルブランドとしてアジアで広げていくことだ。現在、中国、香港、台湾でビジネスをしている。中国最大手EC企業アリババ(ALIBABA)のプラットフォームを使えば、各地に実店舗を出店せずとも中国からアジア市場全体を狙える。日本市場でも改革は進めるが、最優先はアジアだ」ときっぱり。商品に関しては、日本で販売しているものと同商材で色など多少のアレンジを加えるという。杤尾社長は02年からワコールの中国ビジネスに携わり、上海に8年、北京に6年滞在した経緯があり、現地とのパイプも太い。17年に中国ワコール董事兼副総経理に就任していることもあり、現在は日本と中国半々の生活を送っている。「年間2億人の女性が下着を購入するというアリババ傘下の中国最大ECサイトである『タオバオ(TAOBAO)』の消費動向分析データを元にニーズを分析すれば。確実に売り上げが伸ばせるはずだ」。

女性目線で商品を作り
表現するのが「PJ」の強み

 杤尾社長は「カタログ休止や店舗閉店は、次のステージに進むための踊り場に過ぎない」述べる。「PJ」のブランドコンセプトは“元気・ハッピィ・セクシー”と創業当時から変わらない。「ブランドコンセプトを時代に合わせて表現することが重要。女性目線で商品を作り、表現するのがわれわれの強みだ。世の中の女性が欲しいと思うものをつかんでおり、その訴求力もある」と栃尾社長。ピーチ・ジョンは従業員の98%が女性であり、うち約30%がワーキングマザーだ。また、女性の管理職は全体の63%で、執行役員3人は全て女性、うち2人が子どもを持つ母親だという。

 最近の下着業界では、体形を問わず下着のおしゃれを楽しむ“ボディー・ポジティブ”が主流になりつつあるが、日本ではそれを表現することはなかなか難しい。それをリアルサイズモデルの募集やお笑いコンビのフォーリンラブとバービーとのコラボレーションで表現し、多くの女性の共感を得ているのも女性目線を貫くピーチ・ジョンだから。「女性主導で、下着業界のフロントランナーとしてトレンドを作って行くのがわれわれの使命だ。私の仕事はその基盤作りをサポートし、効率化することだ」。創業当時から女性による女性のためのビジネスを行ってきたピーチ・ジョン。これから、「PJ」がアジア市場でグローバルブランドとして成長できるかどうかに注目が集まる。

川原好恵:ビブレで販売促進、広報、店舗開発などを経て現在フリーランスのエディター・ライター。ランジェリー分野では、海外のランジェリー市場について15年以上定期的に取材を行っており、最新情報をファッション誌や専門誌などに寄稿。ビューティ&ヘルス分野ではアロマテラピーなどの自然療法やネイルファッションに関する実用書をライターとして数多く担当。日本メディカルハーブ協会認定メディカルハーブコーディネーター、日本アロマ環境協会認定アロマテラピーアドバイザー。文化服装学院ファッションマーチャンダイジング科出身

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