ファッション

先行き不透明な今だからこそ、パタゴニアから学びたい

 先日、パタゴニア(PATAGONIA)のレジェンドの一人、ヴィンセント・スタンレ(Vincent Stanley)=フィロソファー(哲学者)にインタビューする機会を得た。不安な状況が続く今だからこそ彼らから学ぶことは多い。とくに印象的だったのは、パタゴニアのビジネスには大量生産・大量消費から脱却するヒントがある、ということだ。

 パタゴニアの一番の強みは明確な企業理念を社員と共有して、それを皆が理解するよう努めている点だ。その結果、社員一人一人が自分の持ち場で企業理念にどう貢献するかを考え、理念という“基準”により、ある程度自分で判断ができ行動に移せるようになる。自分の行動に責任を持って何に貢献しているかを自覚するようになるし、それぞれのやりがいや自身の幸せにもつながる。先行きが不透明な今だからこそ、こうしたことは大切になってくるのではないかと思う。企業理念はあっても、十分なコミュニケーションが取れていないなど、それが生かされていない企業もあるのではないだろうか。

 ビジネスと家庭は同じという考え方も印象的だった。パタゴニアは家族や顧客とのコミュニティーを大切にしているし、今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けていち早く行動した。日本でも全直営店22店舗を3月18~31日の期間臨時休業とした。マーティ・ポンフレー(Marty Pomphrey)=パタゴニア日本支社長は、「『パタゴニア』は常に私たちのパタゴニアコミュニティーを第一に考えて会社の方針を決定してきた。今回の状況においても、社員、社員の家族、そしてカスタマーの健康を守る最善の決断をするよう尽くす。そして、この状況を共に乗り越えられると確信している」とコメントを発表している。26日には臨時休業の延長と、非常食や自宅で簡単に調理できる食品ニーズの高まりを受けて、パタゴニアプロビジョンズの食料品の割引販売と送料無料サービスを発表した。

 もちろん会社の規模や体力などさまざまな理由から、パタゴニアのような決断をすることが難しい事業所は多いだろうが、こうした英断とその姿勢はきっと多くの人たちを元気づけたはずだ。

アパレルにおいて
消費ではなく満足感を得るには?

 彼らがほかの企業と異なる点は、新しいカルチャーを創出してきた点だ。インタビューでも新しい価値観について聞いている。ここでいう新しい価値とは、消費に頼らずに得られる満足感や幸せのこと。ファッション産業は、人々の欲望に頼ってたくさんモノを作って成長を続けてきたが、その代償として地球環境を破壊してきたし、それは気候危機の要因となっており、年々深刻化している。地球の容体は待ったなしの状況だ。私たちが今のままの生活を続けるには地球は一つでは足りない。

 パタゴニアが提案する新しい価値の一つに、服と着る人とのコミュニケーションがある。リペア(修繕)によりパーソナライズされて特別なものになっていくというのもその一つだし、着続けることで服とともに経験を積んでいくような感覚を持つこともその一つだ。新品を買わずにリペア&リユースを推進するプロジェクト「WORN WEAR 新品よりもずっといい」では、着ることや服のストーリーを紹介したり、リペアトラックを走らせて「パタゴニア」製品以外の製品でも無料でリペアをしたりしている。その結果、米国ではリペアした「パタゴニア」を着ることがクールというカルチャーが生まれている。

 今、多くの人がこれまでと同じ経済活動や消費を続けることはできないと気づき始めている。一方で、雇用は守らねばならないし、我慢はしたくないし、そう簡単には立ち止まれないし変われない。「仕方ない」「立ち止まったら終わり」という考えを持つ人も多い。

 新型コロナウイルスの影響で、多くの痛みを伴いながら、私たちはグローバリゼーションの中で築いてきた仕組みがいかに脆弱であるかに否応なく気づかされた。立ち止まらざるを得ない状況の企業も人も多い。そういう今こそ、変わるチャンスなのではないだろうか。活動が制限され、物流が止まったことで“限りがある”ことを知った。当たり前だったことが当たり前ではなくなった。その結果、地球の環境は改善しているという記事も多くある。大気中の一酸化炭素濃度や二酸化炭素濃度は低下しているという。

限りある資源を
どう生かし、環境を保護するか

 気候変動対策で企業がまず取り組むこととして、スタンリー=フィロソファーは「サプライチェーンの見直し」を挙げた。そして、サステナビリティに取り組む研究者や問題解決に取り組む企業の創業者も同じことを指摘する。

 どの工程がどれくらい環境に負担を与えているかを知って、最もインパクトがあるところから改善してみてはどうかというのだ。パタゴニアは1990年代から「サプライチェーンの大掃除」を始めており、その結果として使用する繊維の種類や取引する工場も減ったが、規制から生まれたイノベーションも多いという。

 パタゴニアは、多くの企業がこれから取り組もうとしていることを25年以上も前から始めている。まずは3月9日号のインタビュー3月19日に掲載したインタビューを読んでいただきたいし、より詳しく知りたい人には、創業者のイヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard)氏が書いた「社員をサーフィンに行かせよう パタゴニア経営のすべて」(ダイヤモンド社)にとても詳しく事例が紹介されているのでお薦めしたい。

 同著の中でシュイナード氏が語っている印象的な言葉を紹介したい。「商売を始めて35年、ようやく、なぜこんなことをしているのかがわかった。環境活動に寄付したいという気持ちにうそはない。だがそれ以上に私は、パタゴニアでモデルを確立したかった。我々のピトンやアイスアックスが他のメーカーのお手本になったように、環境経営や持続可能性について考えようとする企業がお手本にできるモデルを確立したかった」。パタゴニアはもともと、山を傷つけない登山用のギアの製造から始まり、アパレルに参入した。今は食品も手掛ける。その異色なビジネスモデルは今や有力企業やハーバード大学でもケーススタディーとして取り上げられる。

 パタゴニアのビジネスにある大量生産・大量消費から脱却するヒントを、今こそ理解して実践すべき時だ。

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