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まだ、あなたが知らないニューヨーク最新トレンド みんなの憧れだったバーニーズ、消えゆくNYのファッションランドマーク

 ニューヨークで活躍する名物クリエイティブ・ディレクター、メイ(May)と、仕事仲間でファッションエディターのスティービー(Stevie)による連載第4回。一緒にする仕事とは別に、月に1度はお気に入りのレストランでランチをしながら情報交換する2人。“You’d Better Be Handsome”は、2人がときにゲストを交え、ニューヨークのトレンドや新常識について雑談するコラム 。今回は、閉店が決まってセール中のバーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)、その閉店が何を意味するのかを2人で考えた。当たり前と思っていた老舗や人気ブランドが消えていく今、時代が大きく変化しているとつくづく感じる今日この頃。

 本日のランチは、ソーホーの人気スポット「SADELLE ‘S(サデールズ)」。具がたっぷりの小ぶりベーグルが、レストランの中2階で次々に焼かれ、熱々のままテーブルに届く。入口付近には燻製された魚やキャビアが並べられ、オーダーが入る度にスモークサーモンが スライスされている。ブレックファーストやブランチが有名で、ディナーの営業はなし。SADELLE’S, 436 West Broadway, New York, NY 10012

メイ:ここはいつも混んでいるよね。

スティービー:初めてだけど、なんだか熱気を感じる。

メイ:やっぱりアメリカ人って、ベーグルとスモークサーモンが好きなんだと実感させられる。私もだけど。

スティービー:燻製の魚ってユダヤ人じゃなくても、ニューヨーカーだったら小さい頃から親しんできた味だからね。

メイ:そういえば最近バーニーズ ニューヨークに行った?

スティービー:実はマジソンアベニュー店に2日前に寄ったんだけど、悲しい気持ちになった。バーニーズの恒例だった、別の場所で開催されていた在庫処分的セール“ウエアハウスセール”よりもさらにたたき売りみたいな状況で。値下がりしているのを見たこともない化粧品やフレグランスまで安売りされていたし。

メイ:いまウェブサイトに入ろうとすると、すでにサックス・フィフス・アヴェニュー(SAKS FIFTH AVENUE)のサイトに自動的に変わっちゃうから。

スティービー:バーニーズを買収したオーセンティック・ブランド・グループ(AUTHENTIC BRANDS GROUP)は、バーニーズの経営難の源だった不動産を全て整理し、コンセプトだけを生かして他の百貨店内にインショップを展開するという方針らしい。

メイ:倒産の話はこれまでにも何回もあって、その度にいくつもの投資会社が手を挙げて乗り越えてきたから、今回もなんとかなるのでは?と勝手に思ってた。2007年には日本のファーストリテイリングも手を挙げたけど、9億4230万ドル(約1036億円)でドバイの投資会社が勝ち取ったかたちになったから。

スティービー:今回もストリートブランドの「キス(KITH))のオーナー、サム・べン・アヴラハム(Sam Ben Avraham)を中心にファッション界の人々が、“セーブ・バーニーズ(バーニーズを救おう)” キャンペーンを行ったりして、なんとかバーニーズを残そうとしていたけど。

メイ:1923年に創業して、もう少しで100周年だったのにね。

バーニーズは
子どもの頃からの憧れだった

スティービー:バーニーズは、子どもの頃からの憧れで、中学生の頃にはニュージャージーの実家からバスを乗り継いで行った。10代の僕に買えるものは限られていたけど、1階から最上階まで見て回るだけでも楽しかった。そのときに購入したカシミヤのビーニーは今でも愛用しているよ。

メイ:私も最初にニューヨークで住んだ場所がチェルシーで、バーニーズの最初の店舗がまだあって、すごく素敵だったのを覚えている。その後、“CO-OP(コーアップ=コンテンポラリースポーツウエア)”というコンセプトを打ち出して、「3.1 フィリップ・リム(3.1 PHILLIP LIM)」や「アレキサンダー ワン(ALEXANDER WANG)」といったコンテンポラリーラインのデザイナーの時代が到来したり。

スティービー:バーニーズは当時から他のデパートとは違って、並んでいる商品だけではなく、売り場のディスプレーはもちろん店員たちも個性的で、本当にファッションを愛する人たちが集まっている場所だった。

メイ:ファッションの代名詞だったからね。ウインドーもツイストが利いて面白かった。

スティービー:自称“ウインドードレッサー”のサイモン・ドゥーナン(Simon Doonan)みたいな人もいて、彼によってバーニーズのウィンドーディスプレーは毎回話題になって独特の文化を発信していた。

スティービー:それにしても、マディソン店の家賃が年間3000万ドル(約33億円)と聞いて体の力が抜けたよ。それじゃ、いくら売っても利益が出ないと素人でも分かる。

メイ:もともとは1600万ドル(約17億6000万円)だったらしいけど。さらに2016 年にチェルシーに立派なお店をつくっている。あれは必要だったのかな?

スティービー:ラグジュアリーブランドの聖地といえるマディソン店が、そもそも自社ビルじゃなかったことに驚かされた。

メイ:アメリカ市場にはまだ紹介されていなかった「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」や「アズディン アライア(AZZEDINE ALAIA)」「ゴヤール(GOYARD)」、「クリスチャン・ルブタン(Christian Louboutin)」なんかを扱ったのも、バーニーズが最初よね。

スティービー:それに若いファッションデザイナーにとっては、バーニーズ ニューヨークに置いてもらえるということがステータスというか登竜門になっていた。

メイ:ライバルだった五番街のサックス・フィフス・アヴェニューにインショップを開くって、なんだか皮肉よね。

スティービー:正直、受け入れがたい事実。

メイ:時代の流れや変化に乗れなかったというか。

スティービー:人気ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ(SEX AND THE CITY)」の中で、サラ・ジェシカ・パーカー(Sarah Jessica Parker)扮するキャリー・ブラッドショーが、かつて「ショッピングが私の有酸素運動」って言っていたのを思い出す。ショッピングの主なプラットフォームが売り場ではなくてオンラインになってしまった現在は、有酸素運動も自分がやるのではなく、宅配の人に任せているっていう時代。

メイ:日本では、セブン・アンド・アイ・ホールディングスがバーニーズのライセンスを持って展開しているよね。ニューヨークで生まれたバーニーズだけど、今後もがんばってほしい。

スティービー:バーニーズの帰りにマディソン街を歩いていたら、ずーっと「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」の旗艦店だった場所が空き物件になっていたのを見て、一つの時代が終わったとつくづく感じた。

メイ:ラフ・シモンズ(Raf Simons)がチーフ・クリエイティブ・オフィサーなった後に大々的なリノベーションをしたばかりだったのに。

スティービー:ニューヨークの老舗デパートのロード&テイラー(LORD & TAYLOR)も、2019年頭に閉鎖している。100年以上続いた歴史ある店なのに。

「ディーン&デルーカ」も
NYから消えていく

メイ:ファッションじゃないけど、ニューヨークの街からは「ディーン&デルーカ(DEAN & DELUCA)」の店も消えたよね。ニューヨークの権利は、タイの企業が持っていて、アジアと中東では約70店舗展開、今後5年で90店舗をオープンする予定って「ニューヨークタイムズ(NEW YORK TIMES)」に書いてあったよ。

スティービー:ホールフーズ(WHOLEFOODS)ができて、デリバリーしてくれるアマゾンフレッシュ(AMAZON FRESH)なんかが普及していったことがニューヨークで苦戦した大きな理由かもね。形を変えて生き残っていく。肉体が消えても、精神は各国でまだ残っている。

メイ:さらに、今年に入って「オープニングセレモニー(OPENING CEREMONY)」もニューガーズグループ(NEW GUARDS GROUP)に買収された。年内に店を閉めるらしい。

スティービー:ウンベルト・レオン(Humberto Leon)とキャロル・リム(Carol Lim)がセレクトショップ兼自身のブランドとして立ち上げた2002年、ハワードストリートは、まだチャイナタウンの一部のエリアという位置付けだった。それが「オープニングセレモニー」の登場で、ユニークなショッピングストリートになったのは確か。

メイ:彼らは、昨年「ケンゾー(KENZO)」からも離れている。「オープニングセレモニー」のクリエイティブ・ディレクターとしては残るらしい。

スティービー:彼らが店をオープンした当初、いわゆるダウンタウン系のデザイナーがこの店を中心に集まっていた。「ユナイテッドバンブー(UNITED BAMBOO)」「イミテーション・オブ・クライスト(IMITATION OF CHRIST)」といった、カルチャーを感じるブランドがあった。「オープニングセレモニー」はクロエ・セヴィニー(Chloe Sevigny)とのコレクションを仕掛けたりしてファッション界を盛り上げてくれたし、いろんなデザイナーに機会をくれた。そのお店が閉まるなんて、時代が大きく変わっているのを感じるよ。

メイ:パリのコレット(COLETTE)が18年末に閉店したのも痛かったけど、今後この流れが続かないといいな。

メイ/クリエイティブディレクター:ファッションやビューティの広告キャンペーンやブランドコンサルティングを手掛ける。トップクリエイティブエージェンシーで経験を積んだ後、独立。自分のエージェンシーを経営する。仕事で海外、特にアジアに頻繁に足を運ぶ。オフィスから徒歩3分、トライベッカのロフトに暮らす

スティービー/ファッションエディター:アメリカを代表する某ファッション誌の有名編集長のもとでキャリアをスタート。ファッションおよびビューティエディトリアルのディレクションを行うほか、広告キャンペーンにも積極的に参加。10年前にチェルシーを引き上げ、現在はブルックリンのフォートグリーン在住