ファッション

着想源は「ジョーズ」 ラフの「CK」はあらゆる対立構造を飲み込み“コンテクスト主義”を提唱

 ベルギーで生まれ、長らくヨーロッパで活躍してきたラフ・シモンズ(Raf Simons)は、「カルバン クライン(CALVIN KLEIN.以下、CK)」のチーフ・クリエイティブ・オフィサー就任を機にアメリカに移住。以降、異国人として、もっともアメリカンなブランドの刷新に挑み、マーチングバンドや警官の制服、それにチアガールのポンポンやカウボーイのブーツなどのアメリカンアイコンを彼のミニマルな世界観に取り込み、それをデヴィッド・ボウイ(David Bowie)の「This Is Not America」にのせて発表するなど、アメリカ的な世界と非アメリカ的な世界を融合することで「CK」の国際化に取り組んでいる。

 そして2019年春夏、ラフの「CK」の世界はさらに広がり、アメリカ的と非アメリカ的以外にも、さまざまな対立構造の双方を一度に取り込む懐の深さを見せつけた。

 今シーズンは、スティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)の映画「ジョーズ」と、チャールズ・ウェッブ(Charles Webb)の小説を原作とした映画「卒業」の2つがインスピレーション源という。大勢が知っている「ジョーズ」から話をすれば、あなたはこの映画を、「何映画」とカテゴライズするだろうか?スリラー?ホラー?それともパニック?見る人によって、そのカテゴライズはバラバラだろうし、そもそも、この映画は権力者の陰謀やそれを乗り越えた上での巨大ザメとの死闘など、ホラーやパニックを凌駕するヒューマンドラマ的要素も強い。 “一言では語れない”映画なのだ。

 「卒業」はどうだろうか?こちらは、生きる目標を見出せないスネっかじりの金持ちと、「恋に恋している」がゆえ彼を愛してしまう愚かな娘、そして、娘の恋を知りながらスネっかじりとの不倫を続ける不貞の母親が織りなす、三者三様に自己中心的なヒューマンドラマ。ラフが自身のブランドでも追い求め続ける、道徳や倫理を超越した“背徳的なものに憧れる”人間特有の心理が描かれている。

 2つの映画についてラフは、「ジョーズ」を「アメリカの風景をめぐる旅が、必然的に、その先に繋がった。それは、素晴らしい美の概念があるが、緊張感もある海岸。2つの世界が出合い、せめぎあっている。予期せぬことが起こるかもしれない感覚と誘惑は、『ジョーズ』が完璧に体現している」と話し、もう一つの「卒業」については「母親と娘、父親と息子など、異なる世代のドレスコードに興味を掻き立てらた。家族のさまざまな動態を描く『卒業』同様、コレクションもタブーや誘惑、文化や社会の変化を探求し、それを『愛』が包括している」と評する。2つの世界や価値観が出合い、せめぎ合い、揺らぎ、融合し、結果、次代を切り開いたからこそ、ラフは2本の映画に惹かれたのだ。

 さまざまな対立構造の双方を取り入れたコレクションは、見る人、着る人によってさまざまに解釈されるだろう。まず目に飛び込むのは、「ジョーズ」の犠牲者が着ていそうなネオプレンのミニドレスや、「卒業」でスネっかじり役を演じたダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)が着るであろう学帽&アカデミックドレス。正直ラフにしては安易な引用に思えるが、それも背後に込めた深遠な世界と、アメリカらしい安直な商業主義という2つの対立構造に基づくものだ。そして、ネオプレンのミニドレスはメンズライクな古臭いツイードのジャケットと組み合わされ、学帽やジャケットはアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)のアートをプリントしたフリンジハーネスとコーディネイトされる。ネオプレンのミニとメンズライクなツイードジャケットは、ハイテクとトラッド、フェミニンとマスキュリン、アヴァンギャルドとコンサバなどの対立構造を飲み込んだもの。そして学帽&ジャケットにフリンジも同じく、アカデミックとセクシー、特権階級と貧困などの相反する世界を融合した結果だ。いずれのスタイルも、所々に穴が開いたり、はだけていたり、太ももが露わになる様にちぎれていたり背徳感を忍ばせた。

 「WWDジャパン」の9月17日号、「越境系クリエイター」特集では、「コンテンツよりコンテクスト」、つまり送り手が発信するコンテンツより、受け手が解釈するコンテクスト(文脈)の重要性を訴えたが、今シーズンの「CK」は、まさにそれだ。あるひとは、最先端のモードと捉えるだろうし、別のある人は退廃的なデカダンと解釈するだろう。スポーティーでもあればコンサバでもあり、セクシーかと思えばダサい。

 異国人としてアメリカを見続けるラフ・シモンズのダイバーシティー、多様性の解釈は、単に「すべての個性の尊重をしよう!」とレインボーカラーの洋服をランウエイに送り出す、そこいらのデザイナーの数歩先をいっている。

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