ファッション

「トリッペン」創業者が語る“よちよち歩き”から25年の歩み

 ドイツ・ベルリン発のシューズブランド「トリッペン(TRIPPEN)」は、1993年に最初のウッドシューズ・コレクションを発売してから25周年を迎えた。人間工学に基づいた独自のソールとデザインで知られる同ブランドは、現在世界40カ国で販売されている。また、これまで目立ったブランドコミュニケーションには取り組んでこなかったが、若い世代にもブランドの哲学やストーリーを伝えていくため、3月にベルリンにコンセプトストアを兼ねたプロジェクトスペース「P100」をオープン。「トリッペン」らしいコミュニケーションの形を模索し、現在はアニバーサリーを記念した展覧会「エッセンス・オブ・アイデンティティー(ESSENCE OF IDENTITY)」を開催している(会期は9月7日まで)。創業者の1人であるミヒャエル・エーラー(Michael Oehler)=デザイナーにこれまでの歩みとこれからの展望を聞いた。

WWD:25周年を迎えた今の心境は?

ミヒャエル・エーラー「トリッペン」創業者兼デザイナー(以下、エーラー):25年もやっていたらアイデアが尽きるのではないかと恐れていたが、そんなことはなかった。次々と解決すべき問題が出てくるからね。

WWD:解決すべき問題とは?

エーラー:「トリッペン」の靴のデザインは、常に機能性が出発点。特定の問題に独自のデザインや考え方でアプローチし、どうすればそれを解決し、妥協することなく、はき心地のいい靴を作ることができるかを考えている。例えば、プラットフォームソールの必要ではない部分を切り取ったり、非常に柔らかなレザーを使いつつ足が抜けないよう細い伸縮性のあるバンドをデザイン的に配したり。トレンドに迎合せず、そぎ落としてよりシンプルでありながらユニークなものを作るという核は変わらないが、時代と共にその哲学を発展させている。

WWD:設立当初から「生産者は、環境・消費者・労働者の全てに責任を持つべきである」という理念を掲げているが。

エーラー:具体的には2つの考えから成り立っている。1つ目は、製品にはできる限り堆肥化できる天然素材を使用するということ。そして、もう1つは従業員が健康的で長く働ける労働環境を整えるということだ。また、すり減ったソールの交換やステッチのほつれの修理など、ショップで幅広いリペアサービスを受け付けている。使い捨てではなく、できるだけ1足を長くはき続けてほしい。今後は、交換済みのソールを活用したリサイクルのプロジェクトも始めたいと考えている。

WWD:靴の生産背景は?

エーラー:デザインを行うスタジオはベルリンに置き、ベルリンの北60kmにあるツェードニックに自社工場を構えている。工場では120人が働いていて、現在はそこで全ての靴を生産しているよ。制作過程において欠かせないのは、試作品を自分で実際にはいてみること。自社設備だからこそ、はいてみて、おかしいところや改良できる部分を職人とすぐに話し合い、さまざまな解決策を試してみることができる。職人から新しいアイデアやインスピレーションを得ることも多い。そういう意味で、すぐに行き来できる距離でモノづくりを行うメリットは大きい。また、型名が分かり、部品があれば、これまでに発表した全モデルのオーダーを1足から受けられるというのも自社工場の強みだ。

WWD:現在は何カ国で販売されているか?また、中でも注力している市場は?

エーラー:現在は世界約40カ国で販売されている。中でも、日本は最大かつ最も重要な市場だ。まだブランドが駆け出しの頃から、金子さん(日本で輸入販売を行う金万の金子誠光・社長)には資金繰りのサポートもしてもらったりと、本当にお世話になってきた。日本でこれだけ知られるようになったのも、彼のおかげだと思う。

WWD:ブランドを設立した90年初めというと、ベルリンの壁崩壊を想起させるが、ベルリンの街は25年でどのように変わったか?

エーラー:もともと私は劇場で出演者のための靴を作る仕事をしていたが、壁の崩壊の後、西ベルリンと東ベルリンにそれぞれあった劇場は次々に統合や閉鎖されていった。私が働いていた劇場も閉鎖されることになり、その後、アンジェラと「トリッペン」を立ち上げることになったんだ。ベルリン自体はよりオープンで国際的な街になった。街中で英語を聞くことも格段に増えたね。その一方で、人が増えすぎて家賃も上がり、引っ越し先を探すことすら難しいという問題もある。私が引っ越してきた80年代は、より良い部屋に2カ月ごとに引っ越していたほど、安い物件がたくさんあったからね。

WWD:この25年でブランドを取り巻く状況はどのように変わったか?

エーラー:昔は純粋に靴のデザインで勝負することができた。というのも、我々がブランドを始めた90年代には、個性豊かなオーナーが営むブティックが数多く存在し、彼女たちが「トリッペン」の魅力を伝えてくれていたから。しかし、今はそういったブティックも減りつつある。また、これからの若い世代にブランドの哲学やストーリーを伝えていくには、製品だけでは十分ではなく、新たなコミュニケーションの形を模索する必要がでてきた。その一環として、「P100」をオープンした。

WWD:「P100」で開催している25周年を記念した展覧会の狙いは?

エーラー:「エッセンス・オブ・アイデンティティー」という名の通り、我々のアイデンティティーや哲学を表現している。波線状の什器には初期から最近までの製品の中からよりすぐったものを時系列で並べている。会場に流れる音は日常生活の中から集めた音。そして壁面では、はき古した靴と新しい靴を解体したものを展示し、靴のライフサイクルを表している。ぜひ、「トリッペン」の背景や哲学を体感してほしい。

WWD:今後、「P100」をどのように活用していくのか?

エーラー:コンセプトストアとしての役割に加え、さまざまなアーティストやクリエイターとコラボレーションし、展覧会やワークショップなどのイベントを開催したりする場所として活用していく。若いアーティストを支援したいという思いもある。埋めなければいけないスペースがあるということは、常に何かアクションを起こさなければならないということにつながる。

WWD:次の25年に向けた展望は?

エーラー:現在は私と妻の2人を中心にデザインを行なっている。しかし、ゆくゆくは裏方に徹し、若い人に「トリッペン」の新しいページを開いていってほしいと考えているよ。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。

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