ファッション

無類の猫好き、画家・猪熊弦一郎展で感じた“アートのはかなさ”

 昭和期に活躍した洋画家・猪熊弦一郎が描いた“猫”にフォーカスした展覧会「猪熊弦一郎展 猫たち」がBunkamura ザ・ミュージアムでスタートしました。会期は4月18日までで、“1ダース”の猫を同時に飼っていた“無類の猫好き”としても知られる猪熊の猫にまつわる作品が一堂に会します。今回集まった作品は彼の晩年に、生まれ故郷の香川県・丸亀に建てられた丸亀市猪熊弦一郎現代美術館所蔵のもので、およそ160点。繊細なタッチの具象画から色彩豊かな抽象画まで、青年期から亡くなる直前までの幅広い作風の絵画が集まっています。

 猪熊は東京美術学校(現在の東京藝術大学)を出た後、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)と親交のあったフランスの画家アンリ・マティス(Henri Matisse)に師事しました。その際マティスから「お前の絵はうますぎる」と言われたことがきっかけで、自らの作風を求めて、非常に悩み抜いたと言われています。この頃はマティスの影響を色濃く受けた色彩豊かな作品が目立ちますが、その後ニューヨークに拠点を移した後はどんどん抽象的な作品が増えました。晩年は日本とハワイの2拠点生活でさらに表現の幅を広げました。

 そんな幅広さは彼が手掛けたパブリックアート(公共施設にあるオブジェ)や商業作品に生かされています。彼の作品でもっとも有名なものは、おそらく三越百貨店の包装紙「華ひらく」でしょう。これは半世紀以上経った今でも現役で使われているデザインです。ちなみに「華ひらく」の包装紙にローマ字で「mitsukoshi」の文字を入れたのは、当時三越の宣伝部デザイナーだったやなせたかしだったことも有名な逸話です。他にも、上野駅の大壁画や帝国劇場のステンドグラス、東京會舘の壁面など、実は誰もが一度は見たことがある場所に作品があって、最近では2015年に芥川賞を受賞した「死んでいない者」(滝口悠生著、文藝春秋)の装丁にも猪熊作品のデザインが使用されています。

 猪熊の作品には身近なモチーフ、色彩、図形ばかりが登場します。だからこそ、パブリックアートとしても違和感なく日常に入り込んでいるように感じます。でも、街にあふれているからこそ、意外と目に止まらないものって多いですよね。展覧会に先立って開催されたトークイベントでの「僕の大好きな猪熊さんの壁画が、ある日突然ビル解体のために見られなくなるということが、これからますます起こると思います。これをきっかけにパブリックアートに興味を持ったら、可能な限り街を歩いて、猪熊さんが残した美しいものを心に刻んでほしい」という元「リラックス」編集長の岡本仁・編集者のコメントが印象的でした。時代を切り取るアートってはかないものなのだ、と改めて実感したのです。

 SNSの発達でなんでも撮影・投稿できる時代になってしまい、自分の目で何かを見て、感じることが減った気がします。いつでも見ることができるからこそ、意外と見ていないもの、見ないまま終わってしまうものってたくさんあるはず。そう思ったので、僕は猪熊&アート初心者ながらすぐに展覧会を見に行きました。そして、実際に目で見たからこそ感じたことがたくさんあって、こうやって記事を書いています。今回の猪熊弦一郎展は、アートの入り口として、もしくは単なる猫好きにとっても、感じるものが多いはず。東京では“今しか見ることができない”貴重な作品を、ぜひその目で確かめてみてはいかがでしょうか。

■猪熊弦一郎展 猫たち
日程:3月20日~4月18日
時間:10:00~18:00(金曜・土曜日は21:00まで、入館は各閉館の30分前まで)
場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
住所:東京都渋谷区道玄坂2-24-1 地下1階
入館料:一般 1300円 / 大学・高校生 900円 / 中学・小学生 600円

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