ファッション
連載 パリ・コレクション

セラピーのようなショーを見せた「ロエベ」について

 ショーを見ながらセラピーを受けている気分になったショーがあります。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)による「ロエベ(LOEWE)」です。今回のパリコレでパーソナルな部分に届くアプローチの重要性について再確認したと前回のコラム「『コム デ ギャルソン』のショーは心を映す鏡? 川久保さんにも聞いてみました」で書きましたが、「ギャルソン」とは違う方法で見せたのが「ロエベ」です。楽観的で前向きなエネルギーがビシビシ伝わってきました。そもそもショーで女性像を描くデザイナーはいても、女性の心情を描くデザイナーって、私が知る限りほとんどいません。

 今回の会場は美術館さながらで、アーティストのモー・ジャップ(Mo Jupp)の作品を展示したり、スティーブン・マイゼル(Steven Meisel)が撮影した18年春夏のキャンペーンの鮮やかなビジュアルを織り上げた巨大なタペストリーを飾ったり。オランジュリー美術館を想起させる楕円のベンチシートに座り、まるでアートを鑑賞するようにファッションショーを見る演出です。日本からは本田翼さんも最新コレクションを着て来場していました。

 ショーが始まると、ジャージーを多用したこれまでになくウエアラブルで軽やかな服を着たモデルが颯爽と歩いていきます。実用性の高い服とはいえ、ラッフルやフリンジを飾ったり、パステルカラーのギンガムチェック柄をコラージュしたりと、ディテールを加えて繊細さを添えています。足元はつま先が恐竜のしっぽのようになっているスニーカーやアクティブなショートブーツ。そういったプレゼンテーションを見ていると、アート好きで楽観的。実用主義だけど少しロマンチック、ボヘミアンな雰囲気もあってどこかノマド的、そしてユーモラスで知的な女性が見えてきました。恐れなんてちっとも感じない。ショーを通じてジョナサンからポジティブな力をもらった気分になりました。女性像の“心情”がストレートに伝わってくるなんて不思議ですよね。たぶん、それは、先シーズン見せた“不安の塊”のような女性と正反対だったからかもしれません。

 先シーズン見せたのは、暗闇の中で不安気にポツンとたたずんでいるような女性でした。彼女は知的で強さもある――。でも、前に進みたいのに、どっちに進んでいいかわからないような状況にある印象でした。会場は、目を凝らさないと見えないほど薄暗く、ショー直前には会場が真っ暗に。会場はいくつもの部屋を連ねた作りで、部屋によって温度は15度だったり27度だったりと極端に変えていて、モデルも緊張感を持って歩いていました。洋服は、すべて異なるシルエット。非対称のデザインの上、素材、質感、色、テクニックなど目を凝らさないとわからない手の込んだ服です。次から次へと形やディテールが違う服が出てきて、見ているこちらまで、ゾクっとするような不安が襲ってくるドラマチックなショーでした。

 今回もショー終了後にバックステージに駆け込み、ジョナサンに聞いてみました。「彼女にもう恐れはないんだ。彼女は自分の世界、恐れから抜け出してもっと自由になったんだ」。感じた通り!と思いましたが、その心情を同じ空間(ロエベの会場はいつもユネスコ本部)のデコレーションを毎回変えて表現するのですから、驚きですよね。見る側も演出や洋服からヒントを見つけて謎を解くような、アトラクションを体験しているかのようです。そしてこれまでになくリアルな服を提案したことについては、「エッセンシャルでリアルなものにしたかったんだ。お客さんに手にとってもらえることが重要だから」と彼。これまで以上に着やすい服がそろいました。

 ジョナサンはきわめてモダンな服を提案しながら、ファッションショーを通じて、ゾクっとさせたり、力をくれたり。パーソナルな部分に触れてくる数少ないデザイナーの一人だと思います。

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