1. ファッションと時計 それぞれの業界から学ぶこと

ファッションと時計 それぞれの業界から学ぶこと

コラム

2016/7/24 (SUN) 03:00
時計とファッションのクロスオーバーが顕著な「フェンディ」のウオッチ・コレクションは見ているだけで楽しい
 今年も年始早々のS.I.H.H.と、3月のバーゼル・ワールド(以下、バーゼル)を取材するため、2度スイスに赴いた。時計担当になってからは「時計はファッションだ!」と訴え、「レトロ」や「タッキー」「エフォートレス」「ミリタリー」など、ファッションにおいて顕著なトレンドやスタイルが時計にも広がっていることに触れてきた。また半年前には、時計版の“ノー・ジェンダー”ブランドとして「ダニエル・ウェリントン」を紹介。ディストリビューターのビヨンクールは時計業界の商慣習に縛られず、ファッションとして売り出したからこそブレイクしたことに触れた。また時計業界を見つめ始めた2年前から、ファッションの世界と時計の世界からは共に「エモーション」という言葉が頻繁に聞こえてくる。これもまた、弊紙が「時計はファッションだ!」と定義し、今回、“コンテンポラリー・ファッション”ならぬ“コンテンポラリー・ウオッチ”という新たなアイデアを提案する背景だ。

 とはいえ、二つの世界は、「近いようで、遠い」。その距離感もまた、時計担当に就任以来、常に実感していることだ。片方の世界しか知らない人には、もう片方の世界はなんだか難しく見えるようだ。ファッションの人から見れば、時計は機構が複雑で専門用語が飛び交っているイメージらしい。一方、時計の人から見ると、ファッションは目まぐるしいスピードで変わっていき、キャッチアップが大変そうに見えるようだ。そんなときは時計とファッションの世界を結び付ける役割を強く自覚し、それもまた、「時計はファッションだ!」のメッセージにつながった。二つの世界が今以上にクロスオーバーすれば、双方は必ずさらに盛り上がる。まずはお互いが、自分たちより、相手の方が優れている点を学んでほしいと切に願っている。

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ハイコンプリケーション時計の価格破壊を象徴するモデル“タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02T” 時計がファッションより優れているのは、その“嗅覚”だ。今年は「値ごろ」「お買い得」という言葉を何度も聞き、例えば1000万円オーバーが当たり前だったハイコンプリケーション時計の価格破壊、素材変えや素材を生み出す技術の進化で手に入れた価格改定、手薄になった低・中価格帯ゾーンへの新商品の投入などが相次いでいる。取材する時計ブランドの多くは、1本の時計を生み出すのに機構はもちろん、そのパーツから開発・改良を重ねている。誕生までには数年を要することも多く、本来ならスピード感はファッションより劣るハズだ。なのに現在の円高や株安、インバウンドの減速に伴う景気の停滞についての対策は、現段階においては時計ブランドの方が一枚上手だ。時計業界の“嗅覚”の鋭さは、どこから来るのだろうか?こんな質問を投げかけてみると関係者の多くは、スイスとその周辺という極めて小さなエリアで芽生え大きくなった時計業界には、元来、国際情勢に敏感な気質が備わっていると話す。また、高額品の取り扱いが多いからこそ、世界を股に掛けるエグゼクティブとのコミュニケーションが頻繁で、それもまた、“嗅覚”を磨く一助らしい。

 また、一般的にはシリーズ、ラインと呼ばれる、商品ラインアップの築き方も時計業界の方が勝っている。一つのシリーズ、もしくはラインに莫大な手間と時間、コストを費やしているだけあって、時計ブランドは常に、「シリーズの充実には、今、何が必要か?」や「この商品は今、ラインにとって本当に必要か?」などを日々考えている。売れ筋を追うあまりライン同士が近づき、その差異が見えづらくなるという、ファッション業界にありがちな“落とし穴”にハマっているブランドは少ない。

 一方、ファッションの方が優れているのは、やはりイメージの作り方だ。目の前の小さなパーツとそれを組み合わせた機構、そして、大きくてもせいぜい直径4cmのケースなどにとらわれてしまうのだろう。時計業界の“落とし穴”は、「木を見て森を見ず」的な感覚で、性能は最高なのにイメージやエモーションを抱きづらかったり、 そんな感情とプロモーションが乖離していたりのケースを目にすることは多い。また、ファッション業界以上のパワーゲームも深刻だ。今回“コンテンポラリー・ウオッチ”の可能性について取材した中で、ある業界人は、「難しい。10年足らずで急激に大きくなった日本の時計業界は、売れるブランドと売る小売店の力が巨大になり過ぎて、彼らと付き合い続けることばかり考えているから」と警鐘を鳴らした。確かに、特に高級時計の世界は限られた強豪のシェアが非常に高く、彼らの意向がマーケット全体を大きく左右している。ファッションの世界のように選択肢が広がらなければ、時計業界は新客が増えず、今以上に狭い世界になってしまうであろう危機感は、時計担当になって以来強い。時計の前には、バッグやビューティなどを担当してきた。

 「近いようで、遠い」二つの世界のクロスオーバーが大きなパワーを生みそうな気配は、ビューティ担当記者だったときも常に感じていた。時計とファッション、ビューティとファッション、インテリアとファッション、フードとファッションなど、われわれの周りには「近いようで、遠い」業界がまだまだたくさん存在する。それらがクロスオーバーすれば、それぞれの世界は、より楽しくなるに違いない。時計を取材するたびに、時計業界人が憧れるファッションの世界には、大きな可能性がまだまだ残されていると強く思う。

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