ファッション

ワークマン「逆張りの大量出店」に勝算はあるか 仕掛け人・土屋専務に聞く

 「ワークマンプラス(WORKMAN PLUS)」の出店開始から丸1年。作業服専門店のワークマンは、低価格・高機能のアウトドアウエアでも大きく躍進した。人気は既存の作業服の「ワークマン(WORKMAN)」にも波及し、2019年4〜6月期の既存店売上高は28.7%増。一部にはブームの反動を懸念する声もあるが、同社は強気を崩さない。キーマンである土屋哲雄専務取締役は現在の843店舗(6月末時点)を将来的には「1500から2000店舗まで拡大したい」という。

WWD:今期(20年3月期)の業績予想は、チェーン全店売上高が前期比11.2%増の1035億円と大台に乗ります。アパレル不況の中、好調ぶりをどう自己分析しますか。

土屋哲雄専務取締役(以下、土屋):ワークマンがファッションアパレルではないからでしょうね。当社とファッションアパレルとの違いは大きく3つあります。

一つ目は「定価販売」。原則として値引きしません。廃番にする際、残っているサイズやカラーを安くするくらいで、値引き販売率は2%です。

二つ目は「継続販売」。作業服には流行がほとんどなく、ファッションアパレルのように1シーズンで陳腐化しない。最低5年くらいは売れる。だからシーズン終盤に売れ残っても、値引きはせずに翌年も売り続ければいいのです。

三つ目は「共通製品」。この数年でプロ(建設・土木業など)のお客さんが買う作業服と一般のお客さんが買うカジュアルウエアの境がなくなりました。一般の人向けで売れ残ってもプロの人が買ってくれる。作業服は消耗品でもあるので、プロのお客さんは月1回くらいの頻度で来店します。

WWD:大量生産した服が定価で売れずに、値引き販売が常態化しているファッションアパレルに比べてサステイナブルですね。

土屋:うちは大手SPA以上に大量生産です。一つの商品を何十万単位のロットで作るため、価格で他を圧倒できる。それを定価で年月をかけて売り切る。定価で買った服が翌月に値引きされるよりも、エブリデーロープライスの方がお客さんとの信頼関係ができ、長い目で見て得策です。作業服チェーンとして当社がやっていることは長年変わらないのに、図らずもサステイナブルといわれるようになったわけです。

WWD:これまで作業服の販売で築いてきた全国843店舗という店舗網のスケールメリットが、高機能・低価格の実現に武器になるわけですね。

土屋:当社でも初年度の生産量は少なめですよ。といっても5万点、10万点は作るので、他社からみれば大ロットでしょう。2年目には当社の統計チームが需要予測を導き出し、大量生産にゴーサインを出す。30万点、50万点、場合によっては100万点作る。このやり方も作業服で培ったもので、PB(プライベートブランド)のカジュアルウエアでも変わりません。需要予測は数年かけて磨いてきた当社の最大の強みです。競争先が数年かけても追いつけないダントツの製品を作り、たくさん作って定価で売り切る。

PB商品の原価率は現状63%。10月の消費増税でも価格は据え置きにして、増税分は当社で飲み込みます。原価率は65%に届く見通しです。ユニクロさんに比べてもだいぶ高いはずです。この65%は当社を追いかけようとする競合他社にとって「参入障壁」になるでしょう。

WWD:実際、追随する動きはありましたか。

土屋:ほとんどありませんでした。一部SPA(製造小売り)で似たような高機能を売りにしたパンツなどを出したようですが、機能性や価格面で当社とは勝負になりません。他社はリスクに慎重だし、思い切ったことができない。うちは5万点までだったら、商品部の社員が自分の判断で作ってしまう。上司もあまり口出ししません。たとえ失敗したとしても、先ほど話したように店舗の入り口付近におけば、いずれ売り切れます。

「有名ブランドしか通用しない」 アウトドア業界の常識はウソだった

WWD:昨年9月スタートの「ワークマンプラス」の人気は、既存の「ワークマン」にも飛び火し、19年4〜6月期の既存店売上高は28.7%増でした。

土屋:予想以上でした。これだけ支持を集めたのは、高機能・低価格のアウトドアウエアが空白マーケットだったからにほかありません。私たちが参入する前、業界関係者にヒアリングすると、アウトドアウエア市場は知られたブランドでなければ通用しないと言われましたが、そんな常識はウソでした。作業服から参入した私たちは、他社と競争している意識すらありません。

WWD:「ワークマンプラス」では、従来と異なりロードサイド以外にも出店していますね。

土屋:ショッピングセンター(SC)は初挑戦でした。中でもダントツによいのは、3月に開いたららぽーと甲子園(兵庫県西宮市)の店舗です。近くの阪急西宮ガーデンズに「デカトロン」(フランス発の世界最大のスポーツ用品SPA。売上高は約1兆4000億円)の日本1号店が出店したので、メディアでたびたび比較されました。当社としても負けないように力を入れた店舗でしたが、注目を集めたことで相乗効果があったようです。

WWD:リピーターも多い?

土屋:まだ分析しきれていませんが、かなり多いと思います。カードで情報がとれるSCでは、約10%のお客さんが1カ月以内に再び買い物をしてくれました。SCを運営するデベロッパーからは(衣料品では)「ユニクロ(UNIQLO)」に次ぐリピート率だと言われます。ロードサイドのプロのお客さんは固定客で、ほぼ月1回の頻度で来店します。作業着や道具は消耗品ですからね。重要なのは私たちにはすでにプロの固定客の基盤があり、これに一般のお客さんが上乗せされたということです。一般のお客さんにも年3〜4回は買い物を楽しむ固定客になってほしい。一過性にしないためにどんどん仕掛けていくつもりです。

WWD:今期(20年3月期)の「ワークマンプラス」の出店計画を2倍に上方修正しました。ECへの移行で小売業が出店を抑制する中、異例といえます。

土屋:前期(19年3月期)末に計12店舗だった「ワークマンプラス」は、今期末には計167店舗になる予定です。今後の出店は全て「ワークマンプラス」の看板になる。先行する店舗の売れ行きに加えて、既存の「ワークマン」を手早く改装できる見通しが立ったためです。売り場分離改装(部分改装)と呼んでいますが、要は売り場を一般向けとプロ向けの2つのゾーンに分け、内装や外装を最低限しかいじらない店舗です。全面改装に比べて、ずっと低コストで済みます。

WWD:どれくらい抑えられるのですか。

土屋:1店あたりの投資額としてショッピングセンター(SC)の新店が1500万〜2000万円、ロードサイドの新店が6000万円、既存店の全面改装が1500万円かかるのに対し、既存店の部分改装なら200万〜300万円です。埼玉県の2店舗で部分改装を実験したところ、売り上げがほぼ2倍になりました。全面改装した店舗と比べても遜色がありません。

今期末の「ワークマンプラス」計167店舗の内訳は、SCが8、ロードサイドの新店が42、既存店の全面改装が27、既存店の部分改装が90。東京や埼玉、千葉、愛知、大阪、福岡など人口の多いエリアであれば、部分改装で売り上げは倍にできると踏んでいます。

WWD:プロと一般の二毛作だから安定拡大が見込めると?

土屋:そうですね。プロのお客さまにも、一般のお客さまにも、置いてあるものが「自分のための商品」に見えることが肝心です。実は来年春に面白い試みを予定しています。埼玉県の大宮に作る「二枚看板店(仮)」。朝・夕は建設作業員などのプロのお客さん、昼はカジュアルウエア目当ての一般のお客さんに合わせて、時間帯によって店内演出を変更します。表の看板も「ワークマン」と「ワークマンプラス」の2つを切り替える。複数の大型デジタルスクリーンを配置して、同じジャケットであっても、スクリーンの映像が建設現場ならプロに、山なら一般のお客さん向けの商品に見えるという仕掛けです。照明や香りも時間帯で異なる。UX(ユーザーエクスペリエンス、顧客体験)をがらりと変えるのです。

遠方からわざわざ訪れてもらえる店にしたい。例えるなら、中目黒のスタバ(スターバックスリザーブロースタリー東京)のような観光スポットですね。いま、設計者やアーティストと準備を進めている最中です。

SNSだけで目玉商品を売り切る インフルエンサーの力

WWD:19-20年の秋冬商品を昨対比2.7倍、売上高にして300億円分作ると発表しました。

土屋:「ワークマンプラス」がデビューした昨年の秋冬は欠品が相次ぎ、せっかくお越しいただいたお客さんをがっかりさせてしまいました。2年目の今秋冬は欠品をさせない。余らせるくらいでいい。そのために各地に倉庫を10カ所ほど確保しました。生産と物流の態勢を整えます。

WWD:RFID(無線電子タグ)による効率化などは考えていますか。

土屋:まだ考えていません。最後でよいと思っています。他社のお手並みを拝見してからでも遅くない。

WWD:アパレル業界はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の導入が盛んですが。

土屋:順番が違うと思います。まず製品で勝つこと。次に店舗。最後にデジタル。重要性でいえば、製品6割、店舗3割、デジタルマーケティング1割といったところでしょうか。

一昨年はPBの強化で製品の力が向上したはずなのに、目論見ほど売り上げは伸びませんでした。一部のお客さんには届いたけれど、まだこんなものじゃないはず。作業服の印象が強い当社が新しいお客さんを呼び込むには、接点となる新しい店舗が必要だと考えました。それが昨年9月に立ち上げた「ワークマンプラス」であり、多店舗化のめどもつきました。来年はデジタルマーケティングに本腰を入れます。極論をいえば、ネットの評判だけで売り切るようにしたい。

WWD:今SNSのフォロワーはどれくらい?

土屋:それが、まだ公式アカウントがないんです。先日、ある人からも「本当にSNSをやっていないんですか」とあきれられました。うちはいつも後追いなんです(笑)。デジタルマーケティングを掲げながら、お恥ずかしいかぎり。ツイッターもインスタグラムも9月から本格的に始めます。ひとまずフォロワー30万を目標にします。

WWD:とはいえ、SNS上では「#ワークマン女子」「#ワークマンコーデ」などのハッシュタグをつけた投稿がたくさんあります。

土屋:こちらが意図的に仕掛けたのではなく、影響力のあるインフルエンサーの方々が自発的に始めてくれました。本当にありがたいことです。彼ら彼女らの力は実に大きかった。建設作業用のレインウエアがオートバイに最適だと広めてくれたり、飲食店の厨房用に作った滑りにくい靴を妊婦さんに勧めてくれたりしたのも、インフルエンサーの皆さん。私たちが気づかないワークマンの価値を発見してくれた。

数シーズン前からインフルエンサーを展示会に招待して助言をもらっています。今後はさらに進めて、最初から商品企画に入ってもらいます。インフルエンサーにアウトソーシングする感じです。

WWD:インフルエンサー任せで大丈夫?

土屋:ワークマンは作業服の知見はあるけれど、それ以外は素人とあまり変わりありません。だって商品部のスタッフにはキャンプや山登りの経験者がほとんどいないんですから。だから詳しい方の意見に割と素直に従います。仮にすぐ売れなくても5万点くらいなら数シーズンで消化できます。

溶接用の作業服を応用して、バーベキューや焚き火の際に防火機能のあるアウトドアジャケットを作ったところ、「なんでペン差しがあるんだ」とおしかりを受けました。建設現場で図面をチェックするためにペンは必需品だから、クセが抜けずに残してしまったのです。別の頭からかぶるプルオーバージャケットは、女性はヘアスタイルがあるので前開きタイプを作ってほしいと言われて、それにも従いました。値段について2900円は高いという声が多かったため、2500円に変更したケースもあります。

製品開発で協力してもらっているインフルエンサーはキャンプ、山登り、ツーリング、釣り、ランニングなどのそれぞれの趣味をきわめ、数万のフォロワーを持つ人たちです。現状15人前後ですが、50人に増やします。来年9月には、インフルエンサーとのコラボ製品のみを集めたファッションショーも予定しています。

ネットで注文して店舗在庫を受け取る そのために小商圏で出店拡大

WWD:店舗のほとんどはフランチャイズ(FC)。別業界ですが、コンビニは長時間労働でオーナーが悲鳴を上げています。

土屋:加盟店の店長(FCオーナー)の負担を減らして、しっかり稼げる仕組みを作ってきたので、あまり心配していません。精緻なデータ分析に基づく需要予測システムによって、店長がレジ端末の「一括発注」のボタンを押すだけで納品される。閉店後の面倒なレジ精算も翌日14時でOK。開店時刻の5分前に来て、閉店時刻の5分後には帰る。セコムで確認すれば分かります。残業するくらいなら、仕事を先延ばしにしてもいいと伝えています。

実際、加盟店の店長の半数が自分の子供に継がせたいと答えています。子供さんの意思もあるので、みんなが受け継ぐわけではありませんが、一つの評価だと思います。5年ごとのFC契約も更新率は97%です。

WWD:EC化率はどれくらいですか。

土屋:1%台です。現時点ではECで勝負するつもりはありません。ただ、ネットで店舗在庫を公開して、お客さんが自宅近くの店舗で受け取れるようにしたい。そのためには店舗がもっと必要です。このペースでいけば、1000店舗はすぐに超える。お客さんの受け取りの拠点として機能するためには、1500〜2000店舗は必要になります。

WWD:オーバーストアになりませんか?

土屋:「ネットの脅威」とよく言うけれど、コンビニに「ネットの脅威」があるかといえば、ほとんどないでしょう。自宅で宅配便の到着を待つよりも、自宅近くのいつでも行ける場所に商品があるにこしたことはない。かつては人口10万人の商圏が出店の目安でしたが、「ワークマンプラス」なら5万人の商圏でも対応できると考えています。

現在の100坪の標準店舗は売上高2億円が物理的な限界です(前期の既存店平均は1億1251万円)。作業服だけの時代に比べて当社のお客さまは大幅に増えており、加盟店の忙しさは限界に達しようとしています。「忙しすぎるので、同じ商圏に出店してほしい」との声まで届くようになりました。出店拡大には、お客さんの潜在需要だけでなく、加盟店の負担を軽くしたいという思いもあるのです。

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